国立文楽劇場 夏休み文楽特別公演 第三部 夏祭浪花鑑 住吉鳥居前の段、釣船三婦内の段、長町裏の段


第三部 夏祭浪花鑑 住吉鳥居前の段、釣船三婦内の段、長町裏の段

夏といえば、『夏祭浪花鑑』。大阪の夏らしい演目で、好きです。


『夏祭浪花鑑』の一番の見どころはもちろん、「長町裏の段」。この段の団七と義平次の配役如何で満足度が大きく左右されてしまいますが、今回は勘十郎さんの団七、玉也さんの義平次。私にとってベストの配役で大満足でした。


というのも、流れ的に、義平次は憎々しく、それゆえに団七が思わず凶行に至るという流れであってほしいので、義平次が憎たらしいかどうかが私にとっては大きな問題なのです。私が初めて観た義平次は玉也さんでとても憎々しく(玉也さんは以前はもっと容赦ない悪役ぶりだったので、今回よりもっと憎々しかった気もします)、玉也さんの義平次を心待ちにしていました。


勘十郎さんの団七もとにかく姿が美しいので好きです。玉男さんの団七も、本当は殺す気は全くなかったのに殺してしまった正当防衛、という感じがしてそれはそれで納得なのですが、勘十郎さんの団七は、ちょっとちがいます。勘十郎さんの団七は、追い詰められて殺さざるを得なかったようにも見えるし、ごまかしきれない殺意があったかもしれないようにも見える。その、どちらともとれるところが、勘十郎さんの団七の面白さな気がします。それと、最後の「悪い人でも舅は親」で決まる姿が、ますます冴え渡っています。この時の団七の姿には、人間を越えた美とでも言うようなものを感じます。


人形を美しく感じる刹那といえば、どうしても語らずにはおけない、簑助師匠のお辰。今回のお辰の出では、日傘が淡い浅葱色でした。いつもは白の日傘でそれが夏の昼間の暑苦しい太陽と強い光線を連想させるのですが、今回は淡い浅葱色の日傘が夏の強い太陽光線と底なしの青さに輝く高い空を感じさせました。あの淡い浅葱の日傘は、簑助師匠の、あの透明感のあるお辰でなければ、その工夫が映えないと思います。全体的に暑苦しい話の中に、さっと一陣の涼風が吹くような一場面でした。この簑助師匠のお辰の出、本当に大好きです。


床はやはり長屋裏の津駒さんの義平次、咲甫さんの団七が面白かったです。特に団七の咲甫さんの肩衣は、人形や勘十郎さんと同じ団七格子となるので、観ている方もテンションがあがります。江戸時代の大坂の最高のエンターテイメントである『夏祭浪花鑑』を空調の効いた劇場で観る幸せ。素敵です、大阪の夏。