国立劇場小劇場 9月文楽公演 第一部

夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)
  住吉鳥居前の段
  内本町道具屋の段
  道行妹背の走書
  釣船三婦内の段
  長町裏の段
  田島町団七内の段
初演: 延享2年(1745年) 大阪竹本座 
作: 並木千柳・三好松洛・竹田小出雲

予想以上に面白かった。さすが人形浄瑠璃の黄金時代を築いた作家チームの作品だ。必ずしも今の時代の人間にとって共感できるわけではないが、主人公の団七のみならず、ご近所のおやじ(?)船頭の三婦、義兄弟となる一寸徳兵衛、徳兵衛の妻お辰、と、それぞれの登場人物がカッコいい。
また、観客を飽きさせない工夫も随所にある。例えば、発端に近いところでは何箇所かチャリ場があり笑わせたかと思うと、話が進むにつれて暗い内容となるが、その中にも、浅葱幕を使ってふっと気分を華やかにさせる道行があり、クライマックスでは緊迫感を出すために掛け合いとなる。さらに文楽なのにセリを使ったりして大掛かりだ。団七もなにげにお洒落で登場の度にコスチュームが変わっていた(さすがに本水はなかった)。
ひとつ思ったのは、浅葱幕を切り下ろすやり方は歌舞伎より文楽の方が絶対にいい。歌舞伎は三人位の人が切り落とすのだけれども、大抵、切り落とした瞬間に真ん中の人が邪魔になってしまい、登場人物と背景が良く見えない。文楽はそのまま落とすので、鮮やかに切り替わって非常に良かった。
また、今回は、人形遣いの人々の大奮闘が楽しかった。TVで中継があっても絶対に居眠りしてしまうのだが、やはり生の舞台は面白い。生で見なければ。
なお、人形の頭のひとつ団七は、この団七から来ているそう。ただし、今は団七の頭は、薄卵塗りより白塗りの顔の方が刺青が映えるという理由から文七になっている由。また、いがみの権太でもお馴染みのギンガム・チェックは団七縞というらしい。クライマックスでは何と太夫さんまで団七縞の裃で現れ、ちょっと楽しい。
ロビーでは、吉田玉男さんの遺品の展示があったほか、「吉田玉男 文楽芸話」という文庫本サイズの本を売っていた。この本は面白く、読み出すと止まらない。夏祭もこれを読んでから見ればよかったと後悔。