国立劇場 小劇場 9月文楽公演 第二部

吉田玉男一周忌追善
菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)
作:竹田出雲・並木千柳・三好松洛・竹田小出雲
初演: 延享3年(1746年)8月21日 竹本座
初 段 加茂堤の段
     筆法伝授の段
     築地の段
二段目 杖折檻の段
     東天紅の段
     丞相名残の段
http://www.ntj.jac.go.jp/performance/1406.html


文雀さんの覚寿を見れて、とっても満足。人形がどうしても生きているように思えてしまう。武家の奥方として、気丈で立派な女性であることが、姿勢や顔のちょっとした傾け加減で良く分かる。それだけでなく、丞相名残の段では、苅屋姫が伏籠の中に隠れ、その籠に小袖がかけてあるのだが、その小袖の乱れを直す覚寿の手つきが子供に布団を掛ける母親のように愛情に満ちていて、感動してしまった。
また、蓑助さんの奴宅内には大受け。裸で上手の池に飛び込んだ後、下手に回って身体を手ぬぐいで拭いて服を着込んで股に提灯を挟んで暖を取るという動作なのだが、渾身のチャリ場だ。上手中央寄りでは死んだ立田前を見つけての愁嘆場が演じられているのに、宅内が全て持っていってしまう。名人というのは、端役をやってもすごいんです、ということを見せつけられた。
菅丞相を遣う玉女さんはとても神妙に演じられていた。追善公演で師匠の当たり役を遣うことになって、しかもそれが菅丞相ということであれば、プレッシャーも並大抵ではないに違いない。このようなステップを踏みながら玉女さんも菅丞相を当たり役の一つとしてものにしていかれるのだろう。今回の菅原伝授手習鑑では筆法伝授の段で菅丞相が筆法を源蔵に伝授し、現実に玉女さんが玉男さんの芸を継ぎ、浄瑠璃と現実が二重写しのようになっていて、今回、この目で観劇する機会を持てたことをうれしく思った。