歌舞伎座特別舞踊公演

一、三升猿曲舞(しかくばしらさるのくせまい)
   初演: 文政3年(1820年) 作曲: 四代目杵屋六三郎
   此下兵吉 松緑
二、高尾(たかお)
   高尾太夫  雀右衛門
三、うかれ坊主(うかれぼうず)
   願人坊主  富十郎
四、雪(ゆき)
   作詞:流石庵羽積(りゅうせきあんはづみ)  作曲:峰崎勾当
   玉三郎
五、鷺娘(さぎむすめ)
   初演: 宝暦2年(1762)年4月 市村座
   作詞: 壕越二三治(ほりこしにそうじ) 作曲: 富士田吉次 杵屋忠次郎
   鷺の精  玉三郎
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/2007/09/post_18-Printout.html

やはり素晴らしい踊り手の舞台は面白かった!


松緑丈の踊りは、いつもながら勢いがあっていなせで、見ていてうきうきした気持ちになる。踊りとは関係ないけど大向こうが面白かった。お弟子さんだろうか?同じタイミングに一斉に大きな声で掛けていて、体育会系の大会の試合のような感じになっていた。


雀右衛門丈の「高尾」は、美しいの一言。ちょっと振り向いたり、首をかしげるだけの動作にえもいわれぬ色気がある。これでもう少しお元気に動けたらさぞや、と思うが、当のご本人の方が一番そう思われているに違いない。とにかく、また見たいと思った。


踊りの名手、富十郎丈の「うかれ坊主」は、洒脱ですっきりとした踊りだった。ところどころひょうきんな台詞や振りがあって、客席の笑いをとっていた。この日は雀右衛門丈の「高尾」と玉三郎丈の「雪」が少し似通っていたため、富十郎丈の踊りが二つの演目の間にあることで、気分転換にもなり、結果的に公演全体の満足度も高くなった。富十郎丈といえば、先日のTVで船弁慶の後シテを踊る染五郎丈を見ながら「ぼくなんか、こんなに動いたら死んじゃうよー」と笑いをとっていたが、これだけ動けるのだから、全くのご謙遜であろう。ところで踊りの時に用いていた竹で出来たような打楽器は何というのでしょう?面白そうな楽器だ。踊りに出てくる和楽器には、特に打楽器系において色々風変わりな楽器があり、見ている方も楽しい。


そして、最後は、全てを玉三郎色に染めてしまった、玉三郎丈。全く別世界に連れて行かれた気分だった。玉三郎丈の踊りは海外でも評判が高いと聞くが、さもあらん。歌舞伎や日本舞踊は正直なところ、目や耳が慣れないと、中々その美が理解しにくいが、玉三郎丈の姿・踊りの美は、歌舞伎や日本舞踊を全く知らない別の文化圏の人が見ても、等しく美しいと思うに違いない。
「雪」の方は、歌詞通り(歌詞はこちら)の憂いと風情のある内容。大人の女である芸妓の玉三郎丈の踊り(というか物思いにふけりながら傘を持ってゆっくりとそぞろ歩いてるのがほとんどだったけど)だけでなく、ろうそくの火のようなほんのりとした暖色の照明、三味線一挺と独唱の伴奏という素朴な構成もあいまって、見事に「雪」という地唄舞の世界を舞台上に創り出していた。
「鷺娘」は、一転して、様々な表情をもつ娘の舞う踊り。さっきまで憂いのある静かな大人の女だった玉三郎丈が、どうして休憩を挟んで20分後には「娘」、それも、実は見る人を妖しく惹きつける妖精になってしまうことができるのだろう。踊りそのものも変化に富み、引き抜きも鮮やかに決まり、全く息つく間も無く見終わってしまった。演奏も素晴らしかった。また後見の方が全く無駄の無い仕事振りで、舞台を支えていた。