サントリー美術館 開館記念特別展 ビオンボ BIOMBO/屏風 日本の美

2007年9月1日(土)〜10月21日(日)
http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/07vol03biombo/index.html

屏風のみを集めて展示するという企画が面白い。
前回の展示の「水と生きる」は、「水」という、形が無く、地上に遍く存在するものなだけに、色々面白い試みはあったものの、全体としては今一歩、貫徹したテーマを感じにくい内容であった。一方、今回の企画は、画題(コンテンツ)ではなく屏風というフォーマット側に徹底して着目してた視点がユニークで、見る者の興味を掻き立てることに成功していると思う。
屏風というものに何となく好ましさを感じている人は多いと思うのだが、考えてみれば、絵巻、掛軸、茶器などの展覧会はあっても屏風の展覧会というのはあまり無いのではないか。

…という感慨をもったのも、図録に、芸術表現の一フォーマットとしての屏風について、以下のような文言があって、深く納得したためだ。

さらに重要なのは、(筆者注:1556年に来日したイエズス会宣教師であるビエラポルトガルの僧院に書き送った手紙の中で屏風について説明して)「これを閉じれば一となる」と書いている点だ。蝶番で自由に開閉でき、ジグザグにもフラットにも形を変えながら、パタンとたたむと一枚の厚い板のようになってしまう点に、ビレラは驚きの声を発しているのだ。確かに、ヨーロッパでこんな調度に接する機会はなかったであろう。(中略)ここに屏風の大きな特色がある。ひるがえって掛軸や絵巻物を思い起こしてみれば、やはり小さく巻き縮めることができる。その形態自体、きわめてシンプルなものである。日本絵画の特質は、このようなフォーマットの外形にも求められると言ってよい。
河野元昭. "屏風・BIOMBO・日本美術". BIOMBO 屏風 日本の美, サントリー美術館. 2007, p.13-14.

考えてみれば絵画だけでなく、日本の家財・調度は持ち運びできるものが多い気がする。屏風以外にも衝立もあるし、襖もドアに比べればずっと簡単に取り外しできる。そのほか、ベッドに対する布団、ソファに対する座布団、クローゼットに対する葛籠(つづら)、ダイニング・テーブルに対する銘々膳等々。これらのモノ達が携帯性を帯びているのは、日本独自の特徴というより中国・朝鮮・日本にある程度共通するものである気もしないでもない。普通に考えれば、狩猟民族だったというヨーロッパの方に携帯性を重視したフォルムをもつものが多くなっても良い気がするが、農耕民族だったと言われる民族の方が携帯性の高いフォルムの物を好んだというところが面白い。何故だろう?

考えが展示とは離れたところに行ってしまったが、話を戻すと、展示された屏風はそれぞれとても美しく、見ていてとても楽しい。屏風の画題は絵巻や掛軸にあるような花鳥風月、山水画、風俗画、西洋画の技法を用いた画など、様々だが、屏風独特のものもあるそうだ。たとえば、出産の時にのみ使う白い屏風、武家で好まれた馬の絵等。

一番気に入ったのは、「武蔵野図屏風」という六曲一双で、琳派亜種と言いたいような江戸時代のもの。中央から下部は萩、桔梗・菊等が籠の網目のように交互に生い茂り、上部には金雲がある。そして大胆にも右下部に銀色の満月があり、左上部に銀色の富士山がある。展示はもう終わってしまうので残念。もちろん、他にも見ごたえのある屏風が沢山ある。

なお、この展示は展示替えがかなり頻繁。またもう一、二度、行きたい。