日比谷公会堂 日露友好ショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏プロジェクト

公演日: 2007年11月3日(土・祝)〜12月9日(日)
コンサート(1): 2007年11月3日(土・祝) 17:00開演
プログラム: 交響曲第1番、第2番「10月革命に捧ぐ」、第3番「メーデー
指揮: 井上道義
管弦楽: サンクトペテルブルグ交響楽団
合唱: 栗友会

http://eplus.jp/sys/web/s/shostakovich/index.html

ショスタコは結構好きだし、井上さんも好きな上、3,000円というので気軽に行ってみたが、これがすごかった。

何と言っても、まずは、器となる会場がすごい。日比谷公会堂初めて行ったのだが、かなり年季の入った建物。建設時期は関東大震災後、1929年に安田善次郎が私財を投じて建てたコンサート・ホールなのだそうだ(昔のお金持ちはかっこよすぎる!)。日比谷図書館に行くときにはいつも横目で日比谷公会堂を見て、「内部はどうなっているんだろう?」と思っていたので、中に入れて満足。

中に入ってみると、とっても狭いホワイエと狭く小さな客席、低い天井。トークの時に、井上さんが、せまいでしょー、と言っていた。確かに狭いのだけど、考えてみれば、歌舞伎を見る時、歌舞伎座はこれと大体同じピッチの客席、低さの天井で1等席だったら1万5000円払っているのだった。歌舞伎座もそれなりに年季の入った環境ながら「ハレ」の気分満点なのだけど、あれは何がそうさせているのだろう?赤い絨毯?にぎやかな売店?着飾った観客?日比谷公会堂でも応用できるところはありそう。

日比谷公会堂の音響は、イマドキのホールとはえらく違う。特に今回はオケの人数が多いからか舞台の両側面の反響板を取り去ってるため、防音効果バリバリのお部屋で演奏しているような感じ。しかし、第1番〜3番の初演の時代は、こんな音響のコンサート・ホールで演奏されることが前提だったかもしれない。そう思うと、なんだか貴重な環境で演奏を聴いている気分になる。ただ、演奏中、ホワイエの足音等が聞こえてきたのは、ちょっと興ざめだった。音響を良くするのは難しいにしても、防音はしっかりやっていただけるといいのだけど。

全曲演奏プロジェクトのトップバッターとなった今日のサンクトペテルブルグ交響楽団は、ショスタコーヴィチがペテルブルグ出身という、地元の楽団だけあって、深い理解に基づく素晴らしい演奏だった。本当に感動の一言。最初の第1番と最後の第3番終了後は拍手も鳴り止まず、という感じでした。そしてこんな大プロジェクトを成し遂げるために借金まで背負っているという井上さんにも拍手、拍手だ。その男気に惚れました。

曲は、まず第1番は、(飛び級により)18才で卒業したレニングラード音楽院の卒業時の作曲という。この早熟ぶりときたら!しかも、母親がピアニストで父親が音楽好きという環境にあったとはいえ、9才でやっと本格的にピアノを習い始めてこれだというのだから、天才という他ない。
第2番、第3番は、タイトルがそれぞれ、「十月革命」、「5月1日(メーデー)」という。ロシアの現代作曲家で革命や共産主義と無縁であった人が無いことは重々承知していたが、ショスタコーヴィチの音楽家としての人生も共産主義革命とは無縁ではないことを改めて確認した。今までは、純粋にショスタコーヴィチの音にしか興味がなかったので、彼の音楽が生涯にわたって革命と切っても切れない縁にあるということが分かり、ショックを受けた。ことに合唱の部分は、パンフレットに掲載された歌詞を読むと、革命とかレーニン、労働者ということばが踊っていて、革命の歌以外の何物でもない。
しかし、幸か不幸か、ロシア語が分からない日本人にとっては、歌詞の意味は分からず、純粋に音楽としてのみ聞くことになった。多分、ショスタコーヴィチも、今、生きていたら、純粋に音楽で評価してくれ、と言うのではないかと思う。

ショスタコーヴィチと革命について考えていて思い出したのが、Billy Joelの"Leningrad"という曲だ。歌の内容は、こんな内容だ。レニングラードで生まれて戦争で父親をなくし辛い子供時代をすごしたVictorは長じてサーカスのピエロになって子供を喜ばすことを喜びとするようになった。一方アメリカに生まれたBily Joelはマッカーシズムの中、友人を戦争に送り冷戦の中すごした。1987年ソ連での公演でBilly Joelレニングラードに行きVictorとBillyは出会った。VictorがBillyの娘、Alexaを笑わせると、VictorとBillyはお互い抱き合い、こんな友人を持つことができることを、Billyがレニングラードに来て初めて思い知った、というもの。
革命に翻弄され続けて1975年に亡くなったショスタコーヴィチも、こんな曲を書く時代が来ることを望んでいただろう。それでもやはり、革命に翻弄されながらも、曲を書き続けたショスタコーヴィチはすごい。本演奏プロジェクトはまだまだ12月まで続くので、また行ってみたいと思った。ショスタコ嫌いでない首都圏在住の方で、お時間ある方があれば、是非、日比谷にブラリと行ってみて下さい。当日券は現地で買えるみたいです。