東京国立博物館 平常展

何度行っても全然見きれないのだ!またこの日も14室の鉄絵の特別陳列まで行き着かなかった。。

<本館>
5室・6室(武士の装い ―平安〜江戸)

・「借用文書尾形光琳筆 江戸時代・元禄9年(1696)
この借用書を書いたとき、このように後々まで残って博物館で展示されてしまうとは思っても見なかっただろう。あるいは、光琳なら笑い飛ばすだろうか。1696年だと光琳39才。家業が傾き、絵師として活躍し始める時期だ。さりげなく出光美術館でやってる「乾山」の参考資料を展示してくれてうれしい。

・「火事羽織 茶色羅紗地二つ引き紋付」江戸時代・19世紀
大徳川展でも黄門様ご愛用の火事羽織があったが、これは19世紀の火事羽織。海老茶色をしていて、「へ何とか(失念!)」という名前の防火機能があるので好まれていた羊毛で出来た輸入生地を使用していているとか。フェルトの一種に見える。

8室(暮らしの調度、書画の展開 ―安土桃山・江戸)
・「銅水滴」江戸時代・19世紀
部屋の隅に銅水滴が10個前後、展示してあった。興味深かったのは兎の水滴。解説文によれば、水滴は硯箱に入れるという用途から高さに制限がある、ということで、どの水滴もどんぐりの背比べ状態なのだが、このうさちゃんだけは、耳が垂直方向に相当長い。胴体の5倍ぐらいあるのではないか。何故そこまで長い耳を持つの?と、うさちゃんに聞いてみても答えてくれないので、私の予想回答を書くと、恐らくこの耳を持って、うさ子ちゃんの口にから水を硯に流し入れると便利よ、ということなのでしょう。何か心惹かれるうさこちゃんでした。

初音蒔絵源氏箪笥(江戸時代・19世紀)
確か大徳川展でも源氏物語絵巻を収納するための箪笥があったが(鎌倉時代のもの)、これも同じように源氏物語(こっちは冊子)を入れるために創られた専用の箪笥のようだ。なお、箪笥の蒔絵の文様は初音。「初音」という画題に関しては、今年10月の国立劇場十月歌舞伎公演のパンフレットにある表紙解説(小池富雄氏)に以下のような解説があった。

 光源氏三十六歳の正月元旦、正妻の葵上の御殿を訪ねると、梅は咲き誇り極楽浄土のように美しい景色であった。その日は十二支の最初「子(ね)」が元旦に重なる、二重にめでたい初子(はつね)の日であった。養われている幼い姫に、身分が低いために同居できない母から「年月を待つにひかれてふる人に今日鶯(うぐいす)の初音聞かせよ」と和歌が届く。初子の日には、根付の小松を引き抜いて幸運を祈る「小松引き」の祝儀が行われていた。和歌の中の「初音」は「初子」をかけており、また「待つ」は「松」を引くことに重ねている。正月元日のおめでたい風景を詠んでいるが、和歌の真意は、別離した母だから今日は鶯の初音のようにあなたの便りを聞きたい、と娘を思う気持ちがこめられていた。
(中略)「初音」の帖は、「初子」が重なる吉祥のイメージとして中世に普及した。

なるほど。ところで義経千本桜に出てくる「初音の鼓」も「初音」だ。義経が自分の形見と思えといい静御前に渡すが、「年月を待つにひかれてふる人に今日鶯の初音聞かせよ」という和歌を思い合わせると、別れ難い人の形見として相応しいものだという気がしてくるし、義経との別れも暗示している気がする。

葡萄図(立原杏所筆 江戸時代・天保6年(1835) 、重文)
如何にも酔って描いた感じの勢いのある(ありすぎる?)絵。しかし重文。隣に展示してある秋汀白鷺図(山本梅逸筆)は恐らく素面で真面目に白鷺が描いているのに、重文の指定無し。ちょっとかわいそう。

山水図( 久隅守景筆 江戸時代・17世紀)
求められるままにその場で描いたとかで、畳の跡がうっすら残っていて面白い!

10室(浮世絵と衣装 ―江戸  浮世絵)
・「三代目市川高麗蔵の亀屋忠兵衛と中山富三郎の傾城梅川」(東洲斎写楽筆、江戸時代・寛政6年(1794年))
文楽での「冥途の飛脚」初演が正徳元年(1711年)、「恋飛脚大和往来」の初演が寛政7年(1796年)となっているので、この梅川・忠兵衛の浮世絵は恋飛脚初演の2年前に描かれたということだろうか。この絵は道行のようだが、雪の景色にも見えず、二人の衣装も今見る黒の揃いの着物ではない。似た作品は無いかと思って、演博の浮世絵閲覧システムで検索してみるも、イマイチ分からず。しかし、これとは別に興味深いものを浮世絵閲覧システムで見つけた。梅川・忠兵衛の 「隅田川渡舟之図」という絵がいくつかあるのだ。あれ?あの二人は新口村で孫右衛門と別れた後、お江戸は隅田川まで来たのだろうか?


<東洋館>
・5室(中国の陶磁 三国〜唐時代の陶磁、宋〜清時代の陶磁、中国の漆工)
五彩唐草文鉢」(景徳鎮窯 「陳守貴造」銘 明時代・15〜16世紀 )。五彩はよく見るものだけど、これはそのなかでもかなり良い物ではないでしょうか。
粉彩梅樹文皿(ふんさいばいじゅもんさら) (景徳鎮窯 「雍正年製」銘 清時代・雍正年間(1723〜35年))。これは以前松涛美術館で行われた景徳鎮千年展で類似の品を見た気がする。あらためて、良いです。
楼閣人物螺鈿十角硯箱」(元時代・14世紀)、広寒宮螺鈿合子(元時代・14世紀)。部屋の片隅にさりげなく置いてあるのだが、この螺鈿(らでん)が繊細で美しく、ため息が出る。文人画のような絵が箱のおもて一面に細工してあり、黒地に、はめ込まれた螺鈿が柔らかく光っている。

・8室(特集陳列 明清画精選)
素敵な絵が目白押しだ。特に呂紀の「四季花鳥図」(明時代・15〜16世紀、重要文化財)が圧巻。四季それぞれの4幅の掛軸になっている。全て、鳥と水と岩と木と、という構図。春・夏・秋は水面が穏やかなのだが、冬のみ、急流になっているのが面白い。蕭雲従の「秋山行旅図巻」(明時代・17世紀、重要文化財)もいい。山また山の山道を旅人が一人、どこかに向かっている。いい日旅立ち