新国立劇場 ラ・ボエーム

全四幕
初演:1896年2月1日 トリノ 王立(レージョ)劇場
指揮:マウリツィオ・バルバチーニ
演出:粟國 淳
出演:
【ミミ】マリア・バーヨ、【ロドルフォ】佐野 成宏、【マルチェッロ】ドメニコ・バルザーニ、【ムゼッタ】塩田 美奈子、【ショナール】宮本益光、【コッリーネ】妻屋 秀和、【べノア】鹿野 由之、【アルチンドロ】初鹿野 剛、【パルピニョール】倉石 真

http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/20000010_2_opera.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%83%A0_(%E3%83%97%E3%83%83%E3%83%81%E3%83%BC%E3%83%8B)

フランス革命後のパリでボヘミアン(boheme;ボエーム)的生活を送る若者の青春群像。

このオペラに登場するボヘミアンとは、売れない詩人ロドルフォ(佐野成宏)、売れない画家マルチッェロ(ドメニコ・バルザーニ)、貧乏な哲学者コッリーネ(妻屋秀和)、仲間の中では唯一、ささやかな収入がある音楽家ショナール(宮本益光)の4人。貧しくとも自由で楽しい屋根裏部屋での共同生活に起こった、ロドルフォとお針子のミミ(マリア・バーヨ)の悲恋が主軸をしたストーリーだ。そこに、かつて恋人同士だった画家のマルチッェロと、今は国会議員のパトロンを持つ女店員のムゼッタ(塩田美奈子)の話が絡む。


幕開が開くと、まず紗幕があり、そこに、セピア色の、パリの街並みの屋根また屋根の風景が映し出された。すぐ後に、屋根裏部屋の舞台の様子が浮き上がってくるのだが、その紗幕の風景が、一気に19世紀初頭のパリの雰囲気に浸らせてくれた。もし私がオードリー・ヘップバーンだったら、"Oh, Paris!"と、あのハスキー・ボイスで叫んでいただろう(=仮定法過去完了; オードリー・ヘップバーンではなかったので、叫ばなかったが)。


今回、私にとって印象的だったのは、オケの方だ。いつもどおり、ろくろく事前チェックもせず席についたが、開演して、オケの最初の四小節を聞くや否や、今回は先日のカルメンフィガロと違うオケが演奏していると確信した。果たせるかな、パンフレットを見たら、東響だった。オケによって、こんなに個性が違うものなのだ。

東響は、管楽器が元気だった。特に管楽器の活躍するところは多くないのに、そういう印象があるということは、このオケの音の個性なのかもしれない。私は、どちらかといえば東響の方が好みだ。というのも、立ち上がりから活き活きとした演奏だし(その作品世界に入っていく上で、出だしは肝心だ)、管楽器は嫌いじゃないし。ただ、絃楽器の滑らかな音が好きな人は、東フィルを選ぶかもしれない。
オペラとはいえ、オケの担う役割の大きさ、というものを、認識させられた。
また、ほんの数小節しかないクラリネットのソロが柔らかく美しい音色で心惹かれたので、調べてみると、十亀正司さんという方は、ソロでも大活躍のクラリネット奏者だった。


キャストでは、ミミ役のマリア・バーヨが群を抜いて素晴らしかった。あれほど、伸びやかな美しい声を持っていたら、本人の志向と身体能力に応じて、クラッシックの歌手か、ミュージカルの歌手以外の道は考えられないでしょう。なぜミュージカルが出てくるかというと、ちょっとジュリー・アンドリュースに似たところがある声なのだ。オペラの最終局面、「結核で死ぬ」直前まで、あと30年は現役の歌手を続けられそうな素晴らしい歌声だったのは、致し方ない。当時は、このようなシチュエーションでは、結核で死ぬのがお約束だったのだろう。かといって、死にそうな声でクライマックスを迎えるわけにはいかないし。
また、ロドルフォ役の佐野成宏さんも、良かった。ムゼッタの塩田美奈子さんは、見た目はコケティッシュなものの、歌声は誠実かつ真面目そうで、そのお声を生かした役で聞いてみたいと思った。
もう一人、個人的に受けてしまったのは、ショナール役の宮本益光さん。NHKの「サラリーマンNEO」のセクスィー部長の平常時、という感じの役作り(か?)で、オペラを聞いているのに、セクスィー部長のテーマが頭の中に流れてしまった(もちろん、このオペラにはセクスィー部長的シーンはありません)。