国立劇場 2月分楽公演 第三部

二世竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
義経千本桜
 伏見稲荷の段
 道行初音旅
 河連法眼館の段

http://www.ntj.jac.go.jp/performance/1711.html

この演目は、歌舞伎でも人気狂言ではあるけれど、文楽の方が、断然、面白い。道行初音旅も川連法眼の段も、今回、文楽バージョンを見て、初めて掛け値なしに面白いと思った。浄瑠璃三大名作の呼び名に相応しいことが良く分かった。

パフォーマンス自体も、主役の狐忠信を遣う勘十郎さんの襲名公演かと思うくらい華やかな上に、太夫・三味線・人形の三業のレベルも高くて、大満足だった。


伏見稲荷の段

義経千本桜の二段目。後の道行や四の切の発端が描かれている段。弁慶が義経の追手の鎌倉勢を切ったため、頼朝と義経との対立が決定的になってしまったこと、義経静御前を吸収への旅に同道させないと決めたこと、その代わりに、初音の鼓を、義経の形見として渡すこと、佐藤四郎忠信の貢献に対して、義経は、自身の源九郎という名を与えること、などが、この段で語られる。

歌舞伎同様、弁慶君は爆発頭。弁慶は、演目によってコスチュームや性格付けが違うので面白い。


和生さんの静御前は、先月見た同じ赤姫の金閣寺の雪姫より、色香が増しているように見えた。絵師の娘と白拍子という役どころの違いによるものだろうか?それとも気のせい?二ヶ月連続で、木に繋がれて大変だ。

なお、イヤホンガイドの高木さんによれば、義経が静を連れて行かなかったのは、楊貴妃玄宗皇帝の例を鑑み、逃避行にあたり、部下の離反、静への反発を恐れた為という。なるほど。


道行初音旅

静御前と狐忠信の華やかな踊り。歌舞伎とはかなり違う踊りだったと思う。文楽の方が動きが多く、面白い。音曲としても面白いが、前半、若干そろってなかった部分もあったかも。今後、どんどんよくなるのだろう。


義経千本桜

ケレンが多く、見どころ一杯の舞台。しかも、四百年も親を想い続ける源九郎狐の情愛に思わずほろっとさせられ、大満足の舞台だった。

一番の見ものは、勘十郎さんの早替わり。最初は、勘十郎さんが一瞬消えて次の出で人形を替えて持ったのをみて、人形を変えて早替わりといわれてもなあ、と思ったが、よく見れば、注目すべきは、勘十郎さんの方であったことに気づきびっくり。歌舞伎役者でも、あれだけ見事に早替わりをする方は限られているかもしれない。ところ狭しと力いっぱい動き回る忠信・狐で、全くだれたり飽きさせられることもない。

また、源九郎狐の親を想い続ける健気さ、義経の親と縁薄く兄に追われる嘆きにも、心動かされた。

狐の顔やスタイルが、現代人のイメージする狐と少し違い、昔の絵巻に出てくる狐のようで面白かった。忠信と思われた人が実は狐であることが分かって以降、歌舞伎と違って人形なのだから、狐のぬいぐるみになってしまってもいいのでは、と一瞬、思った。が、結局、人間の形の人形の方が情愛をよく表せるようで、成程、それで、人形の方を多く遣うのだなと思った。

床の方は、寛治さんの三味線がとても気に入った。津駒大夫が汗をかきながら力いっぱい語っている隣で、琵琶法師のように、自分の三味線の音と語りに耳を傾けながら奏でる、哀愁を帯びた枯れた音色が素敵。

最後は、青空に飛んでいく源九郎狐。江戸時代のファンタジーだ。春の青空のように、すっきりとした気持ちで見終えた。