国立能楽堂 特別企画公演 花子 三笑
◎開場25周年記念特別企画
能 三笑(さんしょう) 大槻文藏(観世流)
梅若六郎
観世銕之丞
http://www.ntj.jac.go.jp/performance/1804.html
花子
甚だ遺憾ながら拝見せず。残念!
三笑
何故か能楽堂には日頃に無い厳重な警備、黒服に菊の御紋?のバッジをつけた人の人だかり、能舞台とは逆方向を向いたカメラの列。何と天皇陛下皇后陛下ご臨席の天覧能だった。全然知らなかったけど、らっきー。天皇陛下も皇后陛下も神々しくも福々しいお顔で見所に挨拶され、自然と拍手してしまうのでした。普段、道で天皇陛下の車が通るからと通行止めに遭遇すると「早いとこ通ってくれ〜!」と思ったりもするが、直にお顔を拝見すると、一目拝見出来て有難いと感動するのは天皇陛下皇后陛下のご人徳なのでしょう。
そして、肝心のお能の方は、さすが、天覧能にふさわしい内容だった。
冒頭は、アイ(山本泰太郎師)が出てきて、蘆山の白蓮社にという庵に住む慧遠禅師(えおんぜんじ、大槻文蔵師)のところに、陶淵明(梅若六郎師)と陸修静(りくしゅうせい、道士、観世銕之丞師)が来ることを告げる。そして、藁屋の作り物の引廻しを下すと、白菊に囲まれた庵に慧遠禅師が現れ、自己紹介する。ここには慧遠禅師以外に十八の賢人と他数百人の世捨て人によるコミュニティがあるとか。で、彼等は流れを枕とし石に口を漱いだりして(?)景観の良いところで修行をしている。また、語られないけど、この慧遠禅師は、ここから出ることを自らに禁じ、三十年以上、山を降りたことがなかったという。
そこに、霜降月の野山の紅葉や白菊を愛でながら、陶淵明と陸修静が童子を連れて慧遠禅師のもとに訪れる。
三人は、蘆山の瀑布に感じ入り、陶淵明と陸修静がクセを舞い、彼等がそれぞれどういう人たちかが語られる。
それが終わると童子が酒を三人に勧めた後、破之舞を舞う。これが可愛いくて目が離せず、ある意味、名人の三人のシテ方も霞んでしまうほど。
しかし、能楽師三人も負けてはいない。相舞となるが、これがとても楽しかった。三人で相舞をするのは、この曲のみなのだとか。それぞれ一人で舞っても面白い三人が、相舞をするのだから掛け算の面白さだ。ちょっと変わったリズミカルな囃子に合わせて三人が揃って小さく足拍子を踏む様子は、バレエ「くるみ割り人形」に組み込んでもあまり違和感ないくらい、おとぎ話チックな楽しさがある。不思議だ。それぞれ尉の面をつけているので(阿古父尉、朝倉尉、小尉)、要するにお爺さん三人の舞なのになあ(だからこそ?)。魅了されているうちに、ふわふわと囃子に合わせて漂っているような、温かく心地良い気分になった。
最後、先頭に陸修静、真ん中に慧遠禅師、後に陶淵明が並び、橋掛りに歩いて行くと慧遠禅師がよろけてしまい、後の陶淵明に介錯される、そして、慧遠禅師は陸修静の肩につかまりながら歩き虎渓を遥かに出る。ふと、陶淵明が慧遠禅師に「さて禁足は、破らせ給ふか」と問いかけると、慧遠禅師と陸修静はあっと驚き、三人で呵々と笑う。…こう書いても、面白くも何ともないが、観ていると、ここの部分は滑稽味があって、とても楽しいのだ。そして、最後、慧遠禅師を真中にして、三人で顔を突き合わせて呵々大笑するところは、三人の友情すら感じられ、実に清々しい気分になる。
この曲を観た後は、自分も仙人か何かになったような気分で、ふわふわと楽しく、清々しい気分で能楽堂を後にした。
ちなみに、これは「虎渓三笑」という故事に基づいて作られた曲だそうで、この故事が画題となっている「虎渓三笑図」がある。チェックしてみると、どうも東博の京都五山展をはじめとして何度か見ているようなのだが、全然記憶が無い。慧遠禅師や陶淵明はうっすらと印象があるが、定かならず。でも、今後は美術館や博物館で「虎渓三笑図」や慧遠禅師、陶淵明、陸修静に出会ったら、今日のお能を楽しく思い出すことだろう。早くどこかで出会いたいものだ。