国立文楽劇場 国立文楽劇場開場25周年記念 4月文楽公演

関西元気文化圏共催事業 国立文楽劇場開場25周年記念 4月文楽公演
◆第1部
寿式三番叟
通し狂言義経千本桜
 初 段 堀川御所の段
 二段目 伏見稲荷の段
     渡海屋・大物浦の段
◆第2部
 三段目 椎の木の段
     小金吾討死の段
      すしやの段
 四段目 道行初音旅
     河連法眼館の段
http://www.ntj.jac.go.jp/performance/2430.html


ぶっ通しで観て、疲れてしまいました。自業自得。


しかし、これでも、大序とか、北嵯峨草庵、河連法眼館の段の頭の法眼と妻の飛鳥が話すところとか、横川覚範実ハ能登守教経とかが出てくる奥とかは今回省かれている訳で、昔の人は、我慢強いとしか言いようが無い。

寿式三番叟

格式のある素敵な舞台だった。和生さんの翁はゆったりと気品のある舞、玉女さんと勘十郎さんはそれぞれ勢いのある舞、大夫三味線も神妙でかつ迫力のある演奏で、いいものを観たなという気持ちになった。

和生さん遣う翁は人形でありながら、途中で翁面(白式尉)を付けて興味深い。私は人形の首は、お能でいうと面と近しい位置づけにある気がしていたのけど、人形の首に更に翁面を付けるということは、人形の首はむしろ、人間の顔(直面)として認識されているということなのだ。一方、勘十郎さんと玉女さんの三番叟の方は、詞章では「色の黒い尉殿」という言葉が出てくるが、三番叟は黒式尉の面をつけていない(実際問題、あれだけ激しく動くからには、とても面などつけられないけど)。

お能の翁はまだ観たことがないので、今度機会があったらぜひ観てみたいものだ。


渡海屋・大物浦の段

前から観てみたかったので、満足した。歌舞伎とは色々違うところがあり、興味深い。しかし、歌舞伎の方が劣るというよりは、歌舞伎は歌舞伎で、また、良いのだった。

まず違うのは、典侍局が若いこと!歌舞伎では大体、ベテランの女方がやるので、典侍局は、おばあさんか良くして中年女性の役かと思ったが、文楽典侍局はとっても可憐なのだった。それからその他の女官が出てこないので、安徳天皇を一人で守護しているという心細さが良く出ているのだった。今まで典侍局は好きでも嫌いでもなかったけど、好きな役の一つになりそう。

銀平実ハ知盛は、かっこいいけど、こちらは歌舞伎の方に軍配を上げたい気もする。というのも、例えば、台詞が歌舞伎の方が、ずっとリズミカルで、いいのである。一つ例を挙げると、銀平と相模五郎のやり取りなど、歌舞伎の啖呵の切り方の方がすっきりとかっこ良くて唱和したいくらいだし、大物浦の知盛の六道之沙汰についての仕方噺も何故か歌舞伎の竹本の方がずっとメリハリがある語りなのだ。

もっとも、人形だからこそ、生身に邪魔されず物語に迫れる部分もあって、例えば、先の典侍局もそうだし、安徳帝の、「朕を供奉し永々の介抱はそちが情、今日又まろを助けしは義経が情けなれば仇に思ふな知盛」という言葉を聴いた時、ああ、この人は小さくても天皇なのだ、この天皇がそうおっしゃってるのだから、知盛も観念しなければなるまい、と、今回文楽で初めて、すんなりそう思えた。歌舞伎だと子役の子の可愛さに何か見えなくなってしまう部分があるのだ。


椎の木の段、小金吾討死の段、すしやの段

今回観て、恥ずかしながら、初めて、すし屋の最後の「及ばぬ知恵で梶原を謀つたと思ふたがあつちが何も皆合点。思えばこれ迄衒つたも、後は命を衒らるヽ種と知らざる、浅まし」というところの意味が分かった。

今までは、イマイチ分からなかったけど、まあ分からなくても大体感動できるから、まあいいかと思っていた。結局、そもそも、鎌倉殿は、維盛に出家を勧めるつもりで梶原に維盛を探させていたわけだ。梶原にとっては、ニセ首を渡そうと渡すまいと、そんなことは、どうでも良くて、あくまで権太をはじめとする弥左衛門家族の演技に付き合ったというだけの話だったということだったんだ。梶原景時、いつから良い人になっちゃったのだ。そりゃ、権太じゃなくても騙されるわ!


道行初音旅

とても良かった。去年2月の東京公演と3月の地方公演の2パターン観ているけど、三味線も違えば人形の所作も違い、全く別物を見ているような感じだった。

勘十郎さんの狐忠信の方が近かったので、忠信中心に観たが、本当に楽しかった。勘十郎さんの遣う人形には人を惹きこむ何かがある。左の人の気遣いも抜群で、感心してしまった(私の日頃の気の利かなさ度を反省させられました)。

簑助師匠の裃がまるで訪問着のような桜の柄だった。これは、どう考えても千本の道行専用でしょう。すごいなあ。


河連法眼館の段

去年の2月の勘十郎狐より更にバージョンアップ。もう、四の切は歌舞伎と文楽を合わせても、勘十郎さんのしか観たくないくらい。

最後まで観て疲れたけど、ホテルに戻った後は、新幹線と劇場で見た桜と勘十郎狐の残像とふかふかのベッドで、心地よく夢の中に入っていけました。

翌日は、奈良に遠足に行ってきたのですが、その話は、また今度。