歌舞伎座 歌舞伎座さよなら公演 四月大歌舞伎

通し狂言 
伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)
  花水橋
  竹の間
  御殿
  床下
  対決
  刃傷
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/2009/04/post_38-ProgramAndCast.html

あっというまに千秋楽前日。苦渋の選択で、昼の部のみを観ることに。
顔見世並みの大歌舞伎に満足しました。

ますますパワーアップする仁左衛門丈の八汐。あれだけいやらしく演じているのに、下品にならないのがいい。八汐だけでなく、勝元も本当に良くて(今の歌舞伎界に仁左衛門丈以上にかっこいい勝元をする人がいるであろうか?)、実は今回の陰の主役は仁左衛門丈という感じだった。

となると、竹の間や御殿での玉三郎丈の政岡、対決での仁木の吉右衛門との「対決」がもっとスリルあるものだったらよかったのに、と、ファンの願いは、天井知らずなのだ。

その意味では、福助丈の沖の井と仁左衛門八汐のやり取りはスリリングで面白かった。今までの沖の井の印象というと、政岡に同情的で政岡の窮地をいつも助けるが、八汐への対応にはてこずっているというものだった。ところが、福助丈の沖の井は、物怖じせず八汐に攻撃をかけ、あまつさえ八汐をたじたじとさせる場面もあり、かなり手強い沖の井だった。でも、おとなしい沖の井よりこっちの方がずっと面白い。沖の井が重要な役ということが初めて納得できた。

吉右衛門丈の仁木は、思ったとおりかっこいいけど、きっと夜の部の毛谷村の六助の方がニンなのだろう。


玉三郎丈の政岡を観て、政岡という役は本当に難しい役だなと思った。実際、政岡がどういう人なのか、浄瑠璃本文にはあまり記述がないように思う。女性としても、その心情はちょっと理解しにくい。母ではあるけど、千松が亡くなった時以外はほとんど感情を出さないし、いくらキャリアウーマンといっても、ちょっと冷静すぎる人のような気がする。玉三郎丈の政岡は、母という面を強調していたように思う。竹本では語られないところで千松をじっと見つめていたり、千松が八汐に刺される時に、かっと目を見開いて動揺したり。

千松の子役の子(原口智照くん?)も好演だった。大抵、子役の子は「お芝居全体の意味は分からないが、自分のパートは一生懸命行儀良くやっている」というレベルで、それでさえ素晴らしいと思うが、今回の千松は、明らかにお芝居全体を良く分かり、自分の役割を理解しているように見えた。すごいことだ。


他に、歌六丈も久々に見れて、うれしかった。いつも栄御前を見ると、この人頭が弱いのではと思ってしまうが、歌六丈の栄御前はそんなことを思わせない、格があった。また外記左衛門も、特に最後の薬湯を飲んで舞を舞うところが良かった。結局、ラストが締まるかどうかは外記左衛門にかかっているのだ。


ところで、仁左衛門丈の八汐の衣装が素敵だった。
竹の間の打掛は、茶の地に松と波が描かれていて、松嶋屋ってことかな?と、思ったが、八汐が後を向いた時、後ろには、橋や帆掛け舟、橋と浮御堂のように見えるお堂等が描かれていて近江八景風。以前見た時は違う打掛だった気がしたけど、家に帰って平成18年11月顔見世の時の筋書を引っ張り出してその時の八汐の竹の間の打掛を見たら、同じ文様で地の色が白っぽい色だった。染め直したのだろうか。
それから、御殿の間で打掛を脱いだ後の白い小袖は桧垣文様の織りが入っていて、さり気なくお洒落。こういうのを観てうっとりするのも、楽しみのひとつだ。普段は演じない女方でもちゃんと手を抜かないで、こだわりを持っている仁左衛門丈、いいなー。

仁左衛門丈に魅了された四月歌舞伎座昼の部でした。