紀尾井ホール 女流義太夫の新たな世界 Aプロ

女流義太夫の新たな世界 Aプロ 午後6時30分開演
 「妹背山婦女庭訓」 道行恋苧環
 「壺阪観音霊験記」 沢市内より山の段
http://www.kioi-hall.or.jp/index.html

年に一回のお楽しみ、「女流義太夫の新たな世界」。特に、駒之助師匠と津賀寿さんの浄瑠璃を聴くのを本当に楽しみにしてきた。今回はAプロ、Bプロに別れて大幅拡充され日程も二日間昼夜4回公演になったのだけど、一日、勘十郎さんの日経ホールの公演と日程が被っていてそっちに浮気してしまったため、拝見したのはAプロのみ。


「妹背山婦女庭訓」 道行恋苧環

昨年、素敵だなと思った三味線の駒治さんがシンを勤めていらっしゃって、うれしかった。やっぱり歯切れの良い三味線で、良い感じなのでした。浄瑠璃(えーっと太夫といってはいけないのでしたっけ?)は、人形の後ろにあるものすごく高い山台の上にいたので、音がダイレクトに客席に伝わらず、迫力に欠けてしまったかも。どうにか舞台配置で工夫できるといいのですけど。

人形は玉女さんの求馬に和生さんの橘姫と清三郎さんのお三輪が絡んで、さあたいへん。清三郎さんのお三輪が可愛かった。ただ、お三輪の着物がかなり色褪せていて、ちょっとかわいそう。大阪本公演の準備絡みでスペアのお古でも着ていたのかしらん。


「壺阪観音霊験記」 沢市内より山の段

以前文楽で観たときは、夫が居てくれさえすれば良いと思っているお里に対して、盲目だからと超ネガティブなことばかりをいう夫の沢市を観ているうちに、お里が可哀想になってきてしまった。ところが今回は、お里と沢市が如何にお互いがお互いのことを思いやっている様子が滲み出ていて、この二人を応援したくなったし、ハッピーエンドで心底良かったと思えた。同じ演目を観ても、すっと分かる時とそうでない時があるのが生で舞台を観る醍醐味。

パンフレットの解説を書かれた竹内道敬先生によれば、お里沢市は駒之助師匠の十八番だとか。ほんと、前回の「加賀見山旧錦絵」のオットコマエのお初もそうだったけど、夫やお主のことを一筋に想って行動する女性を語ったら、駒之助師匠の右に出る人はいないと断言したい!そこに文雀師匠が師匠独特のキュートで愛情あふれる様子でお里と、文雀師匠と息のぴったりあった和生さんのすっきりとした優しい沢市が加わって、本当に感動的だった。特に、お里が沢市が崖から身を投げた後の「エエこちの人、聞こえませぬ/\」の口説きは、今思い出しても、胸が締め付けられる気がする。文雀師匠はこういう場面で急に人が変わったように人形を動かしたりせず、感情を搾り出すように遣われる。だから、いつも人形が人格をもって生きているように見える。
観世音は玉彦さん。あれだけしか動かないのに、ちゃんと観音様らしかったのだから、プロというのはすごい。


ところで、舞台の始まる前に解説をされた竹内道敬先生によれば、本シリーズは今回でもう三回目だとか。本当はもっと女義を聴きたいけれども、どうにもスケジュールに組み込めず、結局、年に一回しか聴けなくて残念。今年はもう少し素浄瑠璃を聴いてみたいので、女義も、後、一回でも二回でも機会を増やせるといいのだけど。


というわけで、2月の文楽三昧生活は終わり。本当は「かまくら文楽」も予定していたのだけど断念。当日、津波警報とやらで電車が運休見合わせてしまい行くのは良いけど、戻って来れなくなったら困ると思ったが、結局、大した被害もなかった。行けばよかった。

この二月に改めて思ったのは、自分の文楽に対する理解が初めて観た時からまるで進歩していないこと。に本当にあきれ果てるくらいだ。でも、文楽が好きというのは全然変わらない。それどころか、年々ひどくなっているかも。

歌舞伎を観始めた頃、ある日、歌舞伎座で近くの席のお年寄りが、「熊谷陣屋」の熊谷の台詞を唱和していた。その人は心底ありがたそうな顔をしていて、それを観た私は、あんなお婆さんになりたい、と思った(本当に唱和したらかなり迷惑だろうから、気分の問題ですが)。このまま行くと、私は国立小劇場で文楽の熊谷陣屋を観ながら心の中で唱和するお婆さんになりそう。その時、一体誰が太夫で三味線で、熊谷直実を遣っているのやら!そして私は数珠を持っていって、涙を流しながら心の中で唱和するのだ。ああ楽しみ!


<番組>

「妹背山婦女庭訓」 道行恋苧環

 浄瑠璃
  お三輪  竹本 土佐子
  橘姫   竹本 土佐恵
  求馬   竹本 越若
      竹本 綾一
 三味線
  鶴澤 駒治
  鶴澤 駒清
  鶴澤 津賀花
  鶴澤 弥々

 人形
  橘姫       吉田 和生
  藤原淡海(求馬) 吉田 玉女
  お三輪      吉田 清三郎

「壺阪観音霊験記」 沢市内より山の段

 浄瑠璃
  竹本 駒之助(人間国宝

 三味線
     鶴澤 津賀寿
  ツレ 鶴澤 三寿々

 人形
  女房お里  吉田 文雀(人間国宝
  座頭沢市  吉田 和生
  観世音   吉田 玉彦

* * * *
囃子 望月太左衛社中
人形 吉田 玉佳
   吉田 文哉
   吉田 玉勢
   吉田 玉翔
   吉田 玉誉
   吉田 福丸

解説

竹内 道敬