東京国立博物館 特別展「誕生!中国文明」

特別展「誕生!中国文明
平成館 2010年7月6日(火)〜9月5日(日)
http://www.tnm.go.jp/jp/servlet/Con?pageId=A01&processId=02&event_id=7411


ここ数年くらい、東博の夏の企画展には若干の不満があった。なぜかというと、企画展が実質、所蔵品の在庫蔵出し展になっていていたから。普段平常展で見せているのを企画展にして特別料金を取るのは如何なものか的な気分で、全然、釈然としなかったのです(年間パスポートで散々観ておいて、東博の収益性の悪化に貢献している私が言えた立場ではないけど)。しかも、「それであれば今回はスキップ」と言いたいところなのに、大抵、どこにこんなの隠してたの?と言いたくなるようなものも目玉として出品されていて、しかたなく観ざるをえなくなるのだ。

そういう訳で、今回の特別展「誕生!中国文明」 も、東洋館改修中の中国古代の所蔵品の有効活用と思い込んでいて、最近まで行っていなかったのですが、実はさにあらず。観てみたら、ほとんど中国の博物館等から借り出したものばかりで、やはり本場のものは大変素晴らしかったです。もー、早く言ってくれれば、何度も通ったのに!


一番印象的だったのは、青銅器の「方か(ほうか)」(安陽市殷墟婦好墓出土(1976年)、商時代・前13〜前12世紀、高67.6cm 口径25.6cm×23.2cm 重21.5kg、河南博物院蔵)。展示会場の入り口付近にある単独の展示ケースに置かれた青銅器で、祭祀用の酒を温めるための器具なのだそうだ。お鍋の縁にあたる部分はラッパ型に外側に広がっていて四本の足も、外側にゆるくカーブししており、要するに真ん中が一番細く、上下が外側に行くにつれてゆるくカーブして開いた形で、中央の一番細いところに半円型の取手が良いバランスでついている。また、お鍋の口に当たる部分には、柱が二本立っている。

私は青銅器の美術品としての良さというのがイマイチよく分からなくて、青銅器の展示があっても、一通りぐるっと観るふりをするだけだった。ところが、この「方か」は気に入ってしまった。この「方か」の解説プレートには「銘文から、この青銅器は婦好(ふこう)という商の王妃のために作られたものとわかりました。」と書いてある。これを読んでから、「方か」を見てみると、なるほど、その青銅器は、高貴な女性が好みそうな、ぽってりとしてチャーミングで、かつ、洗練された形をしているのだ。今は青銅器特有の緑青色をしているけど、その当時はブロンズ色だったはずだ。暗がりの中、ブロンズ色の洗練されたフォルムの青銅器の下で焔が踊る様子は、祭祀の神秘的な雰囲気を一層盛り上げたのだろう。

そして、商の時代のその他の青銅器を見てみると、どれにも、何となく共通する美意識が感じられる。商という王朝のことなんて、学生時代に名前ぐらいしか覚えていなかったけど、実は、ひょっとするとものすごく洗練された人々が多かった王朝なのかもしれない、と思ってしまった。

その後、商を滅ぼした周は、商のセンスを学ぼうとしているが、なかなか商のハイセンスな青銅器には太刀打ちできなかったようだ。さらに漢の時代以降になると、広い国土の様々な人々に説得力を持つ必要があるからか、後の中国美術にも共通する、正統派の、完璧であることを目指した美しい品々が出てくる。

そんな調子で、これでもか、というくらい、圧倒されるような素晴らしい展示品が目白押しなのです。きっと、中国本土には、もっと素晴らしい工芸品が掃いて捨てるほどあるに違いない。すごいなあ。もう一度ぐらい観に行きたいけど、時間はあるだろうか…。