紀尾井ホール 吉原〜情報と文化の発信地〜

■紀尾井 江戸 邦楽の風景(二)
吉原〜情報と文化の発信地〜
2010年11月22日(月)18時30分開演

出演 : 対談 日比谷孟俊、竹内道敬
清元梅寿太夫、清元喜美太夫、清元成美太夫浄瑠璃
清元梅吉、清元吉志郎(三味線)清元成太郎(上調子)
杵屋利光、杵屋巳津也、杵屋巳之助、杵屋利次郎(唄)
杵屋裕光、今藤長龍郎、今藤政十郎、杵屋勝十朗(三味線)
堅田喜三久連中(囃子)

曲目 : 清元「北州」(北州千歳寿)
長唄「吉原雀」(教草吉原雀)
http://www.kioi-hall.or.jp/index.html

前日に蔦重の講演を聴いて、この日は紀尾井ホールで吉原の音楽を聴き、にわかに吉原通になってしまった。


対談 日比谷孟俊、竹内道敬

竹内先生はおなじみの竹内先生。日比谷先生は慶応大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授で、何故、吉原の研究をされているかというと、吉原の七軒町のお茶屋、和泉屋の子孫であられるとか!前日、『吉原細見』で和泉屋という屋号を確認していたので、驚く。遊女の浮世絵等を見せて、「これが先祖の経営していた和泉屋の従業員です」等と楽しそうに語られていて、こちらまで楽しくなってしまった。

面白かった話は、吉原の年中行事について。

まず花見の桜は、2月27日〜3月3日まで植えられており、大八車で運ばれてくるため、それほど大きなものではなかったのたか。歌舞伎の『籠釣瓶花街酔醒』の大道具の桜は樹齢二三十年はありそうな大きさなので、それなりに大きい桜だと思っていたのだけど、違うのだそう。

八朔(8月1日)は白無垢を着る風習があったという。これは、徳川家康が江戸に入った8月1日を祝うもので、武士がその日は白無垢を着ることになっており、吉原もそれに倣ったのだとか。

また、俄(にわか)という行事(8月〜9月)がある。これは、禿と男芸者が芸能をするもので、神田祭の余興から来ているそうだ。そういえば、歌舞伎舞踊の『神田祭』では、男髷を結った女性が手古舞をしていました。それに『俄獅子』という歌舞伎舞踊もあり、これも遊女が手古舞等をするところがあった。男芸者というと幇間等を思い起こしてしまうが、実際には、男芸者という言葉が主に幇間等を指すようになったのは幕末以降のことだそうで、それ以前は、一流の芸人を指していたのだそうだ。男芸者の番付を見てみると、長唄がダントツで多く、他にも一中節、常磐津、荻江節義太夫節等の太夫が名を連ねている。歌舞伎と吉原を兼業している人もいたそう。ちなみに番付には荻江姓の人が圧倒的に多いのだけど、長唄を表芸(おもてげい)とする人は荻江という姓になるのだとか。

9月には、玉菊という遊女の追善に燈籠を掲げたところ、それが大変人気が出て年中行事になったらしい。

年末の酉の市は意外なことに吉原が発祥らしい。その日は吉原を開放して近隣の人々が自由に出入りして正月用品を購入したのだそう。


それから、引っ込みと突き出しについて。

花魁としての才能があると見込まれると、まず禿として姉女郎の元で見習いをする。禿はペアが決まりで名前も「しかの」と「かのこ」のようなひらがな三文字で対句になっているとか。姉女郎は禿に姉女郎と同じ紋の衣装等を揃えたりして禿の世話をする。その後、禿は売り出し前に一旦「引っ込み新造」という職位となる場合があり、番付などから名前が消えるのだという。そして、町娘のように「お」のつく名前が付き、その後、スポンサーがついて、「突き出し」として再度新たに名前を付けて売り出すのだそうだ。引っ込みというのは、なかなか人気があったのだそう。


なお、休憩時間に竹内先生や日比谷先生が所有される色々な展示物を拝見。前日講演を聴いた『吉原細見』を実際に手にとってみることが出来て、かなり興味深かった。嬉々として奥付を見たところ、蔦重が単独の板元になっているものがあり、ついにんまり。他に長唄の本等も。これは義太夫節の本のように、基本的にリズムやテンポや音の高低は指定されていなくて、詞章の要所要所に「三下り」とか「合」とか書いてあるのみだった。


曲目 : 清元「北州」(北州千歳寿)

冒頭は義太夫節の三重をアレンジしたような三味線。唄は謡ガカリで「およそ千年の鶴は、萬歳楽と謡うたり、また万代の池の、亀の甲は、三曲に曲がりて廓をあらわさず」と始まる。「三曲に曲がりて廓をあらわさず」というのは、衣紋坂から大門までの道がS字型に曲がっているので、廓の大門が見えないことを言っているのだとか。吉原の年中行事を唄う。


長唄「吉原雀」(教草吉原雀)

やっぱり長唄は面白い。三味線と唄の人数は同数なのだが、加えて笛、小鼓大鼓といった囃子も入るので、相対的に声の比重が小さくなる。したがって、義太夫のように語りに引っ張られる音曲と違い、それぞれの楽器が比較的自由に技巧を凝らした演奏をしている。例えば、三味線にはアルペジオの二重奏のような合方があったり(スガガキというのだろうか?)、小鼓と大鼓が16分音符で連打!というようなお能ではありえないリズム&テンポで叩いたり。途中、久々に唐草を聴いて満足し(毎月のように聴いたりするとちょっと食傷しないこともないけど)、最後は盛り上がって終わったのでした。

しかし!両曲とも両先生の解説無しには、詞章の意味は全然分からなかったでしょう。そう簡単には分からないのが吉原らしい。また、第二弾、第三弾の企画が待たれる内容なのでした。