国立劇場小劇場 由良湊千軒長者 本朝廿四孝

安寿 つし王 由良湊千軒長者(ゆらのみなとせんげんちょうじゃ)
     山の段
本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)
     桔梗原の段、景勝下駄の段、勘助住家の段
http://www.ntj.jac.go.jp/performance/3711.html

両演目とも半二が合作の作者となっている、半二尽くしの狂言立てでした。


安寿 つし王 由良湊千軒長者(ゆらのみなとせんげんちょうじゃ) 山の段

人買いにかどわかされた姉弟は母と生き別れ、安寿は汐汲み、つし王は芝刈りの苦役をさせられるという場面。景事風にメロディが多くついている。
子供の頃から厨子王は「ずしおう」だと思っていたのに、「つしおう」と知りショックでした。
それから安寿の水桶がかなり大きいのが興味深かった。お能の「松風」の松風とか文楽の「花競四季寿」の海女とかが持つ水桶はほんのお飾りで、水をたっぷり入れたってぶんぶん振り回せるくらい小さい。けれど、さすがに安寿の場合は苦役ってとこがポイントなので水桶は大きいのだ。安寿に、「お能の『松風』では水桶を台車に乗っけて運んだりするよ」とアドバイスしたかったけど、聡明な彼女がそれをきっかけに、汐汲み業務の効率化とかに目覚めちゃったりしたら「もしドラ」ばりの別のお話になってしまうので、アドバイスするのはぐっとこらえました。


本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう) 桔梗原の段、景勝下駄の段、勘助住家の段

この物語における山本勘助と直江山城之助の関係性を描いた場面。

「桔梗原の段」から「勘助住家の段」までの間に張られた伏線が「実ハ」「実ハ」のどんでん返しの連続で最後に一気に解決されるので、それなりに面白い。が、「情」や登場人物の人物造形のリアルさよりも「筋の面白さ」を優先しているという点で、後の半二の作品とは少し路線が違うように思われる。「本朝廿四孝」は、仮に半二の代表作がこれだけだったとしても後世に半二の名を残す偉大な作品だが、このレベルで終わらず、さらに「妹背山婦女庭訓」や「新版歌祭文」「伊賀越道中双六」等で筋の面白さとそれを上回る「義と情に引き裂かれる人々の葛藤」を描くようになった半二は、やはり稀代の浄瑠璃作者だなあと、改めて思ったのでした。