横浜能楽堂「この人 百話一芸」 竹本駒之助

第11回 平成22年12月18日(土) 14:00開演 13:00開場
【出演者】 竹本駒之助(女流義太夫
【テーマ】 女流義太夫の道
【内演容】 芸談、素浄瑠璃「良弁杉由来」より「二月堂の段」

女流義太夫人間国宝・竹本駒之助さんを迎えてのお話のテーマは「女流義太夫の道」。現代の義太夫節の最高峰の一人と称される駒之助さんが築き上げてきた女流義太夫の世界に迫ります。
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女流義太夫人間国宝、駒之助師匠の葛西聖司氏との対談と、「良弁杉由来」の「二月堂」より素浄瑠璃

対談

駒之助師匠の生い立ちからのお話を葛西さんが伺う。そもそも駒之助師匠のお母様が義太夫が好きで、乗り気でない駒之助師匠をお稽古させたのが始まりとか。ただ他にもご兄弟がありながら駒之助師匠のみが習わされたそうで、やはり義太夫好きのお母様が、駒之助師匠の天賦の才能を見極めたということだろう。

他に大阪に出てきて修行で苦労された話、お師匠さんの息子さんと結婚されて、家事とお店と義太夫の三つを両立させたというお話、女義の師匠だけでなく、文楽の若大夫や越路大夫にも付いたというお話、数年前に大病をされて大手術をされたというお話等々。

最も印象的だったのは、駒之助師匠の周囲の人を思いやる姿。結婚するときに、当時の師匠だった春駒師匠が一人身のため、姑と旦那さんとで住む家に呼び、同居して自分の母同然にお世話されたのだそう。また、若大夫師匠に付かれた時も、今の嶋師匠の後を継いで、若大夫のお世話をいろいろとなされたとか。過去、紀尾井小ホールでお聴きした駒之助師匠の「良弁杉由来」の「二月堂」の渚の方、「加賀見山旧錦絵」のお初、「壷坂観音霊験記」のお里が、それぞれ親や主人、夫に対する思いやりに溢れていたのが印象的だったのは故なきことではなく、やはり駒之助師匠の「人となり」が反映したものだったこそ、心を打つものだったのだろう。

他に様々な写真とその解説。襲名披露時の写真で床用の座布団が写っていたのが面白かった。開店祝いの花輪のように座布団の回りに造花を飾ってイーゼル様のスタンドに立て掛けるのだ。それが所狭しと並んでいて、景気が良さそうに見える。この飾り付け考えついた人、面白すぎ。


それから、対談が一段落したところで、駒之助師匠と葛西さんのお稽古実演があったが、大変面白かった。葛西さんはとてもお上手だけど、駒之助師匠の手にかかれば形無し。アナウンサーなのに「が」の鼻濁音を直されたりしていた。ご愁傷様です。

休憩時間にロビーで他の公演のパンフレットを眺めていたところ、茂山千之丞師の大きな写真の入ったパンフレットが目に飛び込んできて思わずどきっとする。今年の7月に素狂言の「無布施経」で千作師と千之丞師の息のあった絶妙な掛け合いを観たときはお元気そうで、むしろ千作師よりも調子が良さそうだと勝手に思っていた。もっともっと狂言を拝見したかったのに。


浄瑠璃 良弁杉の由来 二月堂

やはり、良弁上人のお話というよりは、渚の方のお話だった。

三年以上前に紀尾井ホールで聴いた時もそのような印象があったけど、それは文楽とのコラボで文雀師匠の渚の方と和生さんの良弁上人だったので、浄瑠璃のせいでそうだったのか、人形がそうだったのか、今となってはよくわからない。今回聴いてみたところ、駒之助師匠の良弁杉はあくまで渚の方のお話だった。

また、女義は素浄瑠璃中心だからか、文楽とはまた違った間合いやテンポだったのも興味深かった。

語り終わった後、涙をハンカチで拭かれていたのが印象的だった。葛西さんが「『泣くところで本当に泣いてしまってはいけない』などといいますが」と尋ねると、駒之助師匠は、むしろ泣くくらいでなければいけないと教えられた、ということを話された。また、そう思って語れば実際に泣けてくるものなのだとも。もちろん人によって様々な語り方があるのだろうが、駒之助師匠の場合は、感情的に深く深く掘り下げて語っていらっしゃるからこそ、聴く人を感動させるのだと納得したのでした。

それから、葛西さんが床本について尋ねて下さったところ、越路大夫のものだそうで、表紙には「つばめ大夫」との署名があった。こうやって師匠の床本を貰って使うというのは面白いなあ。

という訳で大変楽しい会でした。

この後は急いで能楽現在形劇場版を世田谷パブリックシアターに観に行きました。