東京都写真美術館ホール 文楽 冥途の飛脚
上映期間 :2011年3月5日(土)〜4月1日(金)
休映日 : 3月7日(月)、14日(月)、22日(火)、28日(月)
■上映時間 10:30/12:30/14:30/16:30
http://bunraku-movie.com/
昭和54年、京都太秦撮影所に舞台セットを作って撮影された文楽「冥途の飛脚」の、淡路町、封印切、新口村を87分にまとめたもの。マーティ・グロス監督、音響・音楽監修は武満徹。
綱師匠や住師匠の若い頃を観るのも面白かったけど、一番すごいと思ったのは、清治師匠が、今の方が断然上手いこと(私は何様じゃ)。今はワンフレーズ弾いただけでもそれと知れるくらい、他の人とは一線を画する三味線を弾かれる清治師匠だけど、この封印切の段は、丸ごと聴いても、いかにも清治師匠らしいと感じる弾き方の部分は本当にごく僅かしかなかった(私にとっては)。もし音だけしか聴くことが出来なかったら、越路大夫が語っているという状況証拠から清治師匠だろうとは分かっても、音からは判断しにくいだろう。そのくらい、今と違うのだった。今まで清治師匠は生まれついての天才に違いないと思ってたけど、これを聴く限りは、恐ろしい位の努力もされていらっしゃるのだと、なんというか、「放射線量が通常の原子炉水の10万倍程度」という言葉を聞いたのと同じくらいの衝撃を受けて、背筋が寒くなったのでした(例えが悪すぎるか)。
一方、梅川を遣っていた簑助師匠は、生まれながらの天才だということが判明しました。
他には、自分が越路大夫を生で聴けなかったことをつくづく残念だと思ったことと、文雀師匠の妙閑が出番がものすごく少なくて悲しかったことなどなど。
そうそう、文雀師匠の妙閑は、素敵でした。普通、人形で感情を表現するとき、だいたい人形の各部分の傾け方や動きで感情を現すことが多いけど、文雀師匠はそれに加えて、能面を照らしたり(微妙に上に向ける)、クモラセたり(微妙にうつむく)するように、人形の首の角度を微妙に変えて陰影を付けることによって、表情を付けるところがすごいと思う。もちろん他の方もそうしたりするけれど、文雀師匠の首の遣い方は一種独特なのだ。そして、このフィルムを観ると、この頃からすでにそのような遣い方をされていることが分かった。
ああ、もっと何度も観ていろいろ観察したかったけど、上映期間はすでに終了。残念でした。
<キャスト・スタッフ>
淡路町の段
太夫 竹本織大夫(現 竹本綱大夫)
三味線 鶴澤燕三(五世)
新口村の段(「恋飛脚大和往来」より)
太夫 竹本文字大夫(現 竹本住大夫)
三味線 野澤錦糸(四世)
人形
忠兵衛 吉田玉男
梅川 吉田簑助
八右衛門 桐竹勘十郎(二世)
孫右衛門 桐竹勘十郎(二世)
妙閑 吉田文雀
製作・監督・編集/マーティ・グロス
撮影/岡崎宏三、小林秀昭
音響・音楽監修/武満 徹
日本側製作/安武 龍
演出通訳/エイデルマン敏子
録音/西崎英雄