四月文楽公演 第二部

四月文楽公演
◆第2部 ※14日から午前11時開演となります。
太平記白石噺(ごたいへいきしらいしばなし)
  浅草雷門の段  新吉原揚屋の段 
女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)
  徳庵堤の段  河内屋内の段  豊島屋油店の段
http://www.ntj.jac.go.jp/schedule/bunraku/2011/34.html

太平記白石噺(ごたいへいきしらいしばなし)  浅草雷門の段  新吉原揚屋の段
去年5月に東京で観た碁太平記白石噺とは印象がかなり違って、興味深かった。去年観たものは、おのぶちゃんを主人公とした冒険物語で、不孝なおのぶ宮城野姉妹とそれを助ける惣六の物語という感じだろうか。文雀師匠のおきゃんなおのぶちゃんと比べて、簑助師匠のおのぶちゃんは、大きくなったら確かに宮城野みたいになりそうなおしとやかな部分のあるおのぶちゃんで、お二人の個性の違いが反映したおのぶちゃんの比較が楽しかった。

最後の惣六の異見のところは、玉也さんの惣六の仕方噺風の所作が鮮やかで、華やかな段切りでした。


女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)  徳庵堤の段  河内屋内の段  豊島屋油店の段

まるで自分が人を殺してしまったような、生々しい感情を引き起こさせる「油地獄」。終演後は居たたまれなくて、一刻も早く劇場を出てしまいたかったくらい、衝撃的だった。

与兵衛(勘十郎さん)は、徳庵堤の段の出の時から、既にヤクザ風の如何にもキレたら何をしでかすか分からないような男。観ている方も、ああ、この人は何かしでかすだろう、と強く確信する人物だった。彼は、河内屋の段で父親や妹に暴力を振るうのにも躊躇は無いし、豊島屋油屋の段で、お吉に「長々しい親たちの愁嘆聞いて、涙をこぼしました」と言うけれども本心から出た言葉とは微塵も思えない。また、お吉に刃を向けながらの「こなたが娘を可愛いほど、俺も俺を可愛がる親父がいとしい」という言葉も、単なる自己正当化にしか聞こえない。私には与兵衛には感情移入できる部分というのは全く無い。そのため、私の場合は、ついお吉の方に共感しながら観てしまい、余計に最後の殺し場が凄惨なものに感じてしまったのかもしれない。

しかし、与兵衛がこのような人物だと、いくらお吉が心ばえが良いとは言っても、何故、与兵衛にあれだけ世話を焼けるのか、若干疑問に思えてしまう部分もある。与兵衛はこの「女殺油地獄」の中で段々と狂気を現していくというよりは、既に徳庵堤の段から、いかにも危険人物といった風体だ。いくらお吉が与兵衛を子供の頃から知っていて実の弟同然と思っていたとしても、私がお吉だったら、幼い娘がいるのに、あのような人物に無防備に接するということは、ちょっと出来ないような気がする。それとも、関西には権太という言葉があるくらいだから、あのくらいの狂気は狂気のうちに入らなくて、ただ単に関東の人間である私にとって怖く見えるだけなのかもしれないけれど。

そして、段切りで、お吉を殺した与兵衛は何故、あそこまで自分が人を殺したという現実に怯えていたのだろう。彼はそれまで実母や養い親の父の異見や愁嘆にも全く心を動かさず、お吉のことだって自分の都合の良いように利用することしか考えていなかったような人だ。彼は、豊島屋に上がりこむ時、最初からお吉からお金をむしり取れなかったら殺すつもりで刀を懐に入れていた。お吉が思いもしないほど抵抗したから驚いたのだろうか。

私にとっては今まで観た公演の中では一番衝撃的だったが、まだ自分の中で色々と消化しきれない部分のある「女殺油地獄」だった。