神奈川県民ホール 文楽地方公演 夜の部

神奈川県民ホール 文楽地方公演 夜の部
二人禿(ににんかむろ)     
義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)
    すしやの段
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f100199/p488035.html           

昼間、外せない用事があったので、夜の部のみ観に行きました。『義経千本桜』のすしやの段は名作です!と、今更私が断言したって別に意味は無いけど、そう断言したい。


印象的だったのは、すしやの後半の籐蔵さんの三味線。梶原景時が弥左衛門の家に向かっていることを知らせる前触のツメ人形が来ると、梶原殿が弥左衛門を捕まえに来るってことで、舞台上は大慌て。とゆーか、物語の流れ的には、梶原景時が来るから慌ててるんだけど、根本原因は、籐蔵さんが無茶苦茶速い撥捌きの三味線で、皆を煽るから!津駒さんは滑舌の良いアナウンサーが「トウキョウトトッキョカキョク」って言うが如き早口で語り倒し、舞台でも人形達がとにかく浄瑠璃に遅れまいと必死で大混乱。その前の場面で、「お里ちゃん、可哀想」なんて、しんみりしてたのに、そんな記憶もすっかり吹き飛びました。いやはや、三味線って、撥捌きひとつで舞台を支配できる、ホントに恐ろしい楽器ですね。

まあ、私も小心者なので、もし、急に自分の家に梶原景時が家来を大勢引き連れて私を捕まえに来ると知ったら、特に三味線で煽られなくとも、無茶苦茶焦るとは思います。

このまま籐蔵さんの煽りが続くのかと思って、戦々恐々としていたら、そんなことは無く、話は感動的に進んだのでした。

もう一つ、印象的だったのは、幸助さんの惟盛。惟盛っていつも、「惟盛くん、しっかりしようよ!」と背中をたたいてやりたくなるような優男で、あまり好きでは無かった。けれど、今回観た幸助さんの惟盛は、違った。最初こそ優男だったけど、権太の最期に立ち会って以降、彼は、自分の意志をしっかりと持った人物として立ち振る舞っていたのだ。彼はきっと、弥左衛門と権太の親子の関係や、梶原景時に託された頼朝の、彼の父、小松の重盛殿に助けられたことに対する報恩の気持ちを受けて、自分が平家の統領だった小松殿の嫡男であることを強く自覚したのだと思う。そして、二段目の知盛ほど衝撃的な形ではないかもしれないけど、彼は彼なりに、平家を代表する一人として、平家の幕引きをし、亡くなってしまった平家に連なる人々を弔おうとしたのではないだろうか。

そう思うと、惟盛が単なる脇役の一人ではなく、とても重要な役に思えてくる。すしやには、義経も出てこないので、サイド・ストーリーのように思ってきたが、惟盛が剃髪して仏門に入り、平家一門を弔うことによって、二段目の知盛の入水による平家の幕引きの流れを受けた段だったのだ、という気がした。私にとっては非常に興味深い発見(とゆーか、妄想)でした。

そういう意味では、弥左衛門は権太に対してもっと厳しく出てほしいかも。権太が、父に認められるためには、あんな大博打に打ってでなければならないと思い込んでいたのは、権太にとって、父がそれだけ大きな存在だったということだし、惟盛も、小松殿という平家一門の信頼が格別に厚かった、大きな存在の父を持っていたからこそ、弥左衛門と権太の関係に感じるところがあったのではないだろうか。


というわけで、二週間後に改めて、昼夜ちゃんと観られる予定なので、楽しみ。