文楽劇場 夏休み文楽特別公演 第1部

公益財団法人文楽協会創立50周年記念
竹本義太夫300回忌
夏休み文楽特別公演

第1部 【親子劇場】 午前11時開演
金太郎の大ぐも退治(きんたろうのおおぐもたいじ)
解説 ぶんらくってなあに
瓜子姫とあまんじゃく (うりこひめとあまんじゃく)
http://www.ntj.jac.go.jp/schedule/bunraku/2013/2597.html

良い子の皆さんに混じって、おばさんも陰ながら拝見させていただきました。


金太郎の大ぐも退治(きんたろうのおおぐもたいじ)

お能の「土蜘蛛」みたいな話だった。そーいえば、タイトルに「金太郎の大ぐも退治」と書いてあるが、「金太郎」と「退治」しか読んでなかった。どうすればそんな器用な読み方が出来るんだろう。我がことながら不思議。

お能の「土蜘蛛」は、源頼光(シテツレ)の部下の独武者(ワキ方)という武者が土蜘蛛(後シテ)を退治する。一方、こっちのお話は金太郎(幸助さん)が大活躍。まあ、独武者みたいに「失礼ですけど、あなた何者?」って聞きたくなる人より、金太郎みたいな有名人が退治してくれたほうが観てる方も面白いってもんです。実は、かわりに敵役の鬼童丸(玉佳さん)という石川五右衛門みたいな盗賊が「あなた何者?」なんだけど、この人は後で大蜘蛛に化ける人なのだ。何とこの人は酒天童子からエリート教育を受けていて、その辺の赤鬼とか青鬼よりも全然、妖術が得意なのだ。

鬼童丸は、その妖術を使って大蜘蛛に化ける。この大蜘蛛は見かけが高足ガニっぽいから何とか直視できるものの、あまり深く考えると今度はカニが食べられなくなれそう。子分の小蜘蛛は見かけも動きも文句なしに本物っぽくて、気色悪い。

お能の「土蜘蛛」は、<蜘蛛の糸>を盛大に投げるが、文楽の方は、<蜘蛛の糸>もちょっとは投げるけど、さらに、金太郎と鬼童丸の二人で宙乗りをするのがスペクタクル。文楽で二人で宙乗りする姿を観たのは、はじめて。

資料展示室で展示を見ていたら、このお話は新作というわけではなく、昔からあるようで、昔の床本?が展示されていた。さらに、この後、酒呑童子と対決するシーンもあるらしい。そっちも観てみたいけど、やっぱり蜘蛛が出てくるところがスペクタクルで良い子の皆さんに受けがいいのかしらん。


瓜子姫とあまんじゃく (うりこひめとあまんじゃく)

嶋師匠が休演で、呂勢さんが代演。嶋師匠も心配だけど、呂勢さんもお痩せになっている感じでちょっと心配。

"The 昔話"といいたくなるようなお話。かつて、「まんが日本昔ばなでは、市原悦子とかが、おばあさんとおじいさんが子供に語って聞かせているような語り口で語っていたが、こちらの義太夫バージョン「瓜子姫とあまんじゃく」は、義太夫太夫が「である調」の現代語で語る。資料展示室では、同じく木下順二の書いた「瓜子姫とあまんじゃく」の絵本バージョンがあったが、そっちは、「ですます調」で、ほのぼのとした調子だった。義太夫の方は、確かに時代物風な語りだったので、「ですます調」っていうよりは、「である調」がぴったりな感じ。…なんだけど、東北弁っぽい会話文も全て大坂のイントネーションで語られるので、何だか、奇妙な感じのところもある。木下順二武智鉄二か分かんないけど、どうして全編大坂弁にしなかったんだろう?

今回は、あまんじゃく(簑二郎さん)のいたずらがばれて、無事、瓜子姫(一輔さん)が助かるというハッピーエンドのストーリー。しかし、地方によっては結末がハッピーエンドにならないバージョンもある。でもそれも少し分かる気がする。瓜子姫は大変可愛い女の子なんだけど、人まねばかりする、あまんじゃくも、憎めない、とても魅力的なキャラクターだからだ。

あまんじゃくは、さんざん瓜子姫の口まねして追い詰めた後に、瓜子姫を裏庭の柿の木に吊して、自分は家の中で、瓜子姫になりすます。見よう見まねで、はた織り機の上に飛び乗って足で機を織ったり、糸繰り車を足で回したり、砧の棒で叩いて回したりと、やりたい放題。その様子が、観ていて痛快。だから、瓜子姫を助けようとした鶏やら雀やら鷹やらのせいで、実はあまんじゃくが瓜子姫に化けていたとばれてしまう場面は、ちょっと可哀想でさえある。

それと、何故かストーリーに全く絡まず、スポット出演しただけで終わった山父(やまちち、紋秀さん)という不思議なキャラクターが出て来たのだが、これが無茶苦茶気になる。山父は人の心をすべて読んでしまうことができる、恐ろしい、大人受けする妖怪なのだ。

このタイプの妖術を使う人は人間界にも結構いる。たとえば、オフィスでメールをみながら、「なんなの、この『今日中に資料作成の上、お客様へ提出お願いします。』ってメールは。とゆーか、これ一週間前に分かってたことなのに、この人、自分のとこで一週間、止めてたのね。私が事情を知らないと思って、悪びれずに、しれっとメール一本で頼んでるし。私に押しつけて問題解決と思ってるに違いない。キー!」みたいな感じ。

話を『瓜子姫とあまんじゃく』に戻すと、数年前に『いまは昔 むかしは今』(網野善彦著、福音館書店)という児童書のシリーズの第一巻に「瓜と龍蛇」という本を読んだ。その本の中身は、ほぼ『瓜子姫とあまんじゃく』のバリエーションについての話だ。児童書とはいえども、とても奥が深くて、面白い。たとえば、バリエーションのひとつには『天稚彦草子』というのがある。「あまんじゃく」は天稚彦アメノワカヒコ)が訛った呼び名といわれているけれども、この草子の中の天稚彦は、最終的には七夕の彦星になり、姫は織姫となる。そして、瓜は何処に出てくるかというと、二人の祝言に大反対していた天稚彦の父が彦星と織姫を隔てるために、瓜を投げつけると、二人を隔てるように瓜から水が溢れ出し、天の川になるのだ。

あまりに七夕の物語と『瓜子姫とあまんじゃく』の物語では話がかけ離れているようにみえるけど、たとえば、『瓜子姫とあまんじゃく』の中で、瓜子姫は熱心に機織をしている。これは何故なんだろう?やはり、どこか影響を受けていると考えるのだ妥当だろう。


というわけで、両方の演目とも楽しい、親子劇場でした。