神奈川県立青少年センター 文楽地方公演

【昼の部】
生写朝顔話(しょううつしあさがおばなし) 
明石船別れ(あかしふなわかれ)の段、笑い薬の段、宿屋の段、大井川の段                     
【夜の部】
花競四季寿(はなくらべしきのことぶき)
    楳茂都陸平 振付  万歳(まんざい)
    藤間紋寿郎 振付  鷺娘(さぎむすめ)   
ひらかな盛衰記(せいすいき)
松右衛門内(まつえもんうち)の段、逆櫓(さかろ)の段
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f602/

今年から地方公演に縦長の可動式の字幕表示機が登場。今までも紀尾井ホールなどで見かけたことがあったけど、なんでGマークという名前なのか分かってなかった。今回、字幕だからGマークと悟って、あまりのベタなネーミングに気を失いそうになりました。


【昼の部】
生写朝顔話(しょううつしあさがおばなし) 

久々に深雪ちゃんを観られて良かったけど、スケジュール的に1回しか観ることが出来ず、残念。

「笑い薬の段」(咲師匠・燕三さん)は初めて観た。文楽には珍しく入れ事があり、咲師匠がすまし顔で、「倍返し」とか「今でしょ!」とか言ってた。元々笑い薬の段では入れ事が入るものなんでしょうか。それとも、地方公演でお客さんへのサービスだったのかな?

祐仙(玉也さん)はお茶が好きという設定で、お茶の点前をする。もちろん三人遣いなので、主遣いの人と左遣いの人の連携して、省略なしのお点前をし、袱紗さばきまでしちゃうのだ。私なんか一人で人形なしでやっても、あんな流れるようにはできん。多くのお客さんが身を乗り出し、釘付けでした。

「宿屋の段」「大井川の段」は、感動的ではあったのですが、広い会場で遠くから観ていたせいか、何となく散漫になってしまい、集中しきれず。残念無念。深雪ちゃん(和生さん)は、今まで観た深雪ちゃんのなかでは一番凶暴(?)だったかも。紋寿さんも簑助さんも徳右衛門を一度突き飛ばすぐらいだったのに、和生さんの深雪ちゃんはもっと徳右衛門を攻撃していた。千歳さんがすっごい勢いで「エヽ知らなんだ/\知らなんだわいなあ」を言っていたからだろうか。

大井川の段では、阿曾次郎さまが置いていった「甲子の年の男子の生血にて服する時は、いかなる眼病も即座に平癒」するという目薬を深雪ちゃんに服用させるために、文楽のお約束どおり、徳右衛門がいきなり自分のお腹を切る。前はこの場面は感動しながら観たけど、今回のように舞台から遠いところから観てると、「あのー、もうお腹を刺しちゃったから後の祭りなんだけど、目薬なんだから、針で指先を刺して一、二滴採るくらいの血の量でも良かったのでは…」などと思ってしまう。いかんいかん。私の大好きな朝顔話なのに。チケットをとったのが遅かったのがいけないのだけど、やっぱり、文楽は小さな劇場で観る方が、観ている側も集中出来る気がする。


【夜の部】
ひらかな盛衰記(せいすいき)

私の今回の地方公演のお目当ては「生写朝顔話」だったけど、「ひらがな盛衰記」が期待以上に面白くって、惹きつけられました。

まず、「松右衛門内の段」の後(英さん・燕三さん)の権四郎(玉也さん)が面白かった。今年一月に文楽劇場で咲師匠・燕三さんで観た時は、権四郎は孫思いの優しい祖父だった気がしたが、今回はいかにも船乗りっぽい、無骨なところのある人物だった。

また、玉也さんの権四郎がお筆に怒りをぶつける場面も面白かった。お筆の「祖父様の仰るとおほり、いかほどお嘆きなされたとて、槌松様のお帰りなさるといふではなし。ふたゝび逢はるゝといふでもなし、さっぱりと思召し諦めて、此方の若君をお戻しなさって下さったら」という詞の後、権四郎が怒りを爆発させることになるのだが、そのお筆の詞の間、玉也さんの権四郎は、お筆の詞に対して沸き起こった怒りを一度は沈めるために、お茶をぐっと一息に飲み干す。それでも怒りはおさまらず、「女子黙れ。何の面の皮でがや/\/\/\頤(おとがひ)たゝく。恥を知れやい恥を。」となるのだ。前回もそうだったのだろうか。今回はその部分の人形の心理描写があまりに詞章にぴったりで目を見張りました。

その後の松右衛門(玉女さん)は文句なしのかっこ良さ。そのかっこよさのまま、「逆艪の段」(芳穂さん・宗助さん)でも続く。芳穂さんも素晴らしかったけど、宗助さんの三味線がとにかく迫力があってカッコイイ。しょっぱなからテンポが速かったので、時間が押してて撤収モードなのかしらん、と思ったのですが、この曲をアップテンポで始めるのは、ほとんど自殺行為に近いというのは、曲が進むにつれてよくわかった。演じている皆さんは大変だったと思うけど、「逆艪」は文楽を観る・聴く楽しさに酔いしれるのにぴったりで、充実した気分で気持よく見終えました。