国立劇場小劇場 12月文楽公演

奥州安達原(おうしゅうあだちがはら) 朱雀堤の段、環の宮明御殿の段

今まで環の宮明御殿の段を観ても、道具立てが複雑すぎてその場面の情報だけでは意味不明な部分も多々あり、「イマイチ話がわからないけど、まあ感動するからいっか」と思っていました。が、昨年11月に奥州安達原の半通しをやってくれたおかげで、やっと今回は話が見えて、まずそのことに感動してしまいました。やっぱり、通しもたまにはやっていただきたいものです。そしてこんな物語を作る近松半二って天才だなと改めて思いました。

床の、靖さん・清馗さん、睦さん・藤蔵さん、千歳さん・富助さん、文字久さん・燕三さんというリレーが、迫力があってよかったのでした。特に千歳さん、富助さんのペアの演奏は、義太夫ならではの圧倒されるような演奏で、この段全体の印象を決定づけるものでした。

人形もそれぞれ迫力がありました。12月の公演の中では、この演目が一番、浄瑠璃を聴いたっていう気分になった演目だったかも。

紅葉狩(もみじがり)

お能では秋の人気曲だけど文楽ではあまり演奏されない。観てみたら、切能らしい、明るく華やかな曲でした。

物語は維茂が戸隠に来て美しい紅葉に出会うところから始まります。そこに更科姫が登場するのですが、更科姫は主遣いの勘彌さん、左遣いの簑紫郎さん、足遣いの玉路さんが出遣い。特別な演目なんでしょうか。

酒宴を催し、ひとさし舞う更科姫と、酔いがまわり、うたた寝する維茂。今日は観劇中、よく気を失ってしまったので、居眠りする維茂に妙に同情したくなります。その隙に更科姫は引っ込んでしまい、間狂言的な場面となります。アイの山神が出てきて、維茂を起こそうとします。後場に当たる場面では、更科姫が鬼の形相になって、維茂に襲いかかります。

お能では鬼は打杖で維茂に襲いかかるのですが、文楽の更科姫の攻撃のクライマックスは何故か煙の攻撃です。この煙、いっぱい出てくる割には維茂の方までは行き着かないし、一瞬、何のことかと思ったのですが…。念のため、私の見立てを申し上げておきますと、多分、これはタバコの副流煙攻撃ですね。発がん性物質をまきちらす、いわば化学兵器です。しかも、タバコの副流煙をモクモクと沢山つくる為には、自分がまずタバコを大量に吸わなければならず、更科姫自ら自分の身を発がんリスクにさらして攻撃しているところが、自己犠牲を好んで描く浄瑠璃の世界にマッチしているのかも…?

床は呂勢さん、錦糸さんのシンです。素晴らしい演奏を聴いて楽しい気持ちで劇場を後にしました。