国立文楽劇場 文楽鑑賞教室

都合によりA班、B班を拝見しました。

A班を見たときは学生さんと一緒でした。学生さんと一緒に観ると、『夏祭浪花鑑』って、オトナ向けな演目だなあと、改めて実感。なぜって、初っぱなから人前で堂々と二人して消えてしまう琴浦さんと磯サマとか、「あなたは色気があるから磯サマを任せられない」と言われてキレて熱い鉄弓を顔に押しつけるお辰ネエさんとか、学校では推奨されない行動を平気でする人達が次々登場する。さらに義平次は、義理の息子の団七の使いを騙って琴浦さんを奪って金儲けをしようとするは、団七の顔に自分の超汚い草履を押しつけるは、清く正しい学生さんの教育上、好ましからざるエピソードが目白押し。そういったことを越えてなお語りかけてくる作品の躍動感やプロット、遠い昔の大坂の風情といった魅力をもつこの演目を選んだ文楽劇場も、団体鑑賞をした学校も、懐が深い!東京の今年の鑑賞教室の演目、『曽根崎心中』は人気演目を持ってくるという演目選び、大坂の方はハイ・リスク、ハイリターン志向な感じで、その対比も興味深い。

『夏祭』って、改めて観ると、数ある浄瑠璃の中でも個性的な登場人物が多いなと思う。たとえば、お辰みたいな人は、ほかの浄瑠璃にはいない。三婦に「こなたの顔に色気がある」って言われて、顔に鉄弓を当てるってすごすぎる。普通は、自分で駄目なら徳兵衛か三婦と自分が信頼できる第三者に頼むことにするとか、せめて旅費なり払わせてもらうとか、もう少し穏当な解決策を考えると思う。それに、磯サマを預かるために、顔に鉄弓を押しつけたりする人は、現実問題、大事な人を預けるにはちょっと怖すぎる。けれども三婦はそのお辰の行動に感じ入る。冷静に考えてみると、若干荒唐無稽なのに、それが大坂の夏の風物と結びつけられ、並木宗輔等のマジックで全く魅力的なキャラクターと説得力のあるストーリーに思えてしまう。観ていてわくわくしてくる、魅力的な作品です。

それから、この公演の直前に英さんが呂太夫を襲名するというニュースをみて本当にびっくりしました。英さんが襲名すること自体には驚きはしないけど、呂太夫という名前は、呂勢さんが継ぐものだとばっかり思っていました。私自身は英さんより呂勢さんの方が全然年齢的に近いので、心情的に残念だけど、今後も応援したいです。ふむ、なるほど。こうやって、何年も応援し、観続けることになるのだな。

また、英さんが襲名されるのなら、是非、津駒さん、千歳さんやできれば松香さんも、襲名していただきたいですね。今後、太夫陣がどうなっていくのか、目が離せません。