森ノ宮ピロティホール 其礼成心中

2012年8月初演の「其礼成心中」の大坂での再演。うまく都合が付けられたので、がんばった自分へのご褒美で行ってきました。この「がんばった自分へのご褒美」って言葉、キケンです。なぜなら、たいていの贅沢は、この一言で正当化できてしまうから。若干後ろめたい気持ちが心中をよぎっても、「とゆーか、こんだけがんばってるのに、なにが悪いの!」と、むしろ逆ギレする勢いで自分の決断を全力で肯定してしまいます。しかも最近は、「自分で稼いだお給料の範囲内だし!公費でもなければ、セコくもないし!!」とかいう言い訳も加わり、始末におえません。

話を三谷文楽に戻すと、公演自体は京都公演から2年ぶりとか。私自身はパルコ劇場での2012年の初演と2013年の再演以来3年ぶりに拝見しました。初演の時とは打って代わり、すっかり手の内に入った感じの、手慣れた公演だったのが印象的した。この世代の方々が配役をほとんど変えず同一演目に出演するのを4年にわたって観るという機会はほとんど無く、そういう意味でも貴重な観劇機会でした。

それにしても、皆さんの成長に驚くばかりです。特に床の千歳さん、呂勢さん、靖さん(前半日程は睦さん)という配役は、今となっては超豪華な夢の配役です。千歳さんの場面は詞が多く、呂勢さんの場面は音楽的要素が強く、靖さんは三枚目で儲け役のお福ちゃん…と、適材適所の配役と語りの妙に、ますます磨きがかかっていました。

三味線も、清介さんを筆頭に、清志郎さん、清丈さん、清公さんが、いつも通りのテンポの良い、メリハリの効いた演奏を披露していました。しかし、全編ノリの良い喜劇なのに、いつもの文楽短調の節付けで(一度も長調には転調しない!)しっくりマッチしているというのは不思議です。改めて考えてみると、西洋音楽のオペラなどではちょっと考えられない作曲術だと思います。笑える台詞劇を挟むように要所要所に入る『曽根崎心中』の「天神森の段」や『心中天網島』の「道行名残の橋づくし」などの音楽がテンポ良く、かつグルーヴィ。そんな風に演奏されることで原作の中で演奏される時とは違った魅力を発して、お芝居全体にメリハリを作り、このお芝居をますます魅力的にしています。

人形の方は、半兵衛(一輔さん)、おかつ(玉佳さん)、おふくちゃん(紋秀さん)という鉄板の配役は初演時と変わりませんが、それ以外の配役が少し変わりました。六助と近松が幸助さんから玉勢さんへ、劇中劇の小春が玉翔さん、治兵衛が玉誉さんなどです。玉翔さんの女形とか玉誉さんの治兵衛とか、初めて観ました。またこの公演では確か2013年の再演の時から?小割帳が出ており、興味がそそられます。特に経験が少ない主遣いの場合は兄弟子に当たる方が左だったりするのですが、左遣いの方が経験が豊富という組み合わせは、主遣い的にはどんな感じなんでしょうね。昨今、職場で手取り足取り懇切丁寧にお教えしないといけない若人が増えてしまい、私自身も自分のことで手一杯でお教えするのに準備したり時間をさくのがすごい負担だし、その一方で、あまりに細かく指示するとやる気をなくされるし…と悩んだりしていたので、こういう組み合わせを見ると、なんだか気になります。

其礼成心中。何度観ても楽しく笑えて、最後はホロッとさせてくれる、平凡な人生を送る人への応援歌のような素敵なお芝居です。是非、今後も末永く再演お願いしたいです。そして、次回作は、文楽版『真田丸』がいいな!