国立文楽劇場 夏休み文楽特別公演(その2)
夏休み文楽の続きです。
第二部
伊勢音頭恋寝刃
古市油屋の段
油屋の段は、咲師匠のものが如何にも粋で華やかな雰囲気があって好き。特に大道具や衣装のデザインがさりげなくお洒落なところ。流水に盃というモチーフは中国の文人達が曲水の宴で遊んだ一日を詠った王羲之の蘭亭序のことかもしれない。本当は、文楽には珍しく、情よりはお洒落や遊びの要素が強い演目なのではと思います。今回の油屋の段は津駒さんでしたが、咲師匠の流儀を汲む油屋でおもしろかったです。とはいえ、咲師匠で油屋を聴きたかった。咲師匠はまだ本復されていないのか、十人斬の段のご出演でした。またいつか、咲師匠の油屋の段が聴きたいです。
人形は、最初に簑助さんのお紺さんが一人、出てくるのですが、そのお紺さんがしっとりと美しかった。それを観ていたら、もう一人の美しいお紺さん、文雀師匠の少し寂しげな、かき氷のような甘くてはかないお紺さんを思い出して、もうあのお紺さんを観られないかと思うと、ちょっと悲しくなりました。
もう一人、万野の玉也さんも興味深かったです。五月の東京で観たさつき、今月の万野と、ここのところ、玉也さんが今までされていなかった役を観られて、ファンには嬉しい限りです。だだ、もっとはじけた万野が観たかったかも。
第三部
金壷親父恋達引
モリエールの「守銭奴」を井上ひさしが翻案したもの。なんといっても、まずは松之輔の音楽に魅了されます。筋の運びが単純なほど三味線のメロディが華やかになる松之輔ルール(勝手にルール化)に則り、全編、とても華やかで楽しい音楽がついていて、聴いていて気持ちが良い小品です。
時間にして1時間ほどの演目で、筋も単純。どちらかといえば、文楽よりは狂言にする方が向いていそうな、素朴な物語です。
改めて松之輔のお仕事を知りたくなりました。生涯で一体、どのくらい作曲したのでしょう?松之輔の仕事をまとめた書物ってあるのでしょうか?