文楽劇場 文楽鑑賞教室

都合によりA班とB班を拝見しました。内容は「二人禿」と三業解説、『仮名手本忠臣蔵』の「下馬先進物の段」から「城明け渡しの段」までのダイジェスト。


大阪の鑑賞教室の面白いところは、二つの班を同日に見比べることが出来るところ。同日なら記憶も新鮮なので、三業のそれぞれの演じ方の違いを比べることができる。また、大阪の鑑賞教室は4パターンの配役があってうらやましい。C班、D班では、和生さんや玉也さんの由良之助が観ることができる。東京では絶対に観ることができない配役。観られるものなら私も観たいけれども、二週連続で大阪に行くのは難しい。


二人禿」は大好きなのに、A班の分は遅刻して観ることができず、残念。B班の禿ちゃんは簑紫郎さんと簑太郎さん。簑紫郎さんは以前は妹分の方の禿を遣っていたけれど、今回は姉様の方。着実に役があがっています。私の小さい頃はまだ、鞠突きとか羽根突きを子供がやっていて、鞠突き(ゴムボールだけど)がたまに流行って、友達と狂ったように練習したり、お正月は羽子板と羽根を物置から出してきて羽根突きをしたりした経験があります。なので、この二人禿を観るたびに子供の頃を思い出して懐かしくなってしまいます。


三業解説は、いつもながら面白いのは三味線と人形。三味線はA班の龍爾さんが、「今の学生にはキムタクが通じず、とうとうそんな時代が来た」的発言をしていました。分かりやすく解説するためにキムタクを選んでいるはずが、キムタクと言われても逆に分からないという…、この先、この龍爾さんの伝統芸はどうなってしまうのでしょうか?


一方の寛太郎さんは、スパルタ三味線解説で、のっけからオモテバチとツキバチを弾いて「はい、違いが分かりますね」と観客に微妙な違いの聴き分けを要求します。オモテバチの方がプレーンな弾き方で、ツキバチの方は、響きに心持ちミュートがかかった音ですが、ハードル高いです。ほかにも何種類かのバチの当て方を弾いてみて、こんな風な弾き方のバリエーションで引き分けていますという、いつものお話をされます。


人形解説は、「なんだかんだいって男前」の路線を貫くA班の玉翔さんと、ほっこりB班の玉誉さんです。お二人とも玉男さん一門にもかかわらず、女形もなかなかキレイに決まっています。何となく人形体験を観られるかと期待していたんですが、あれは夏休みだけだったでしょうか、今回はありませんでした。


10分の休憩をはさんで、『仮名手本忠臣蔵』です。


下馬先進物の段」は、いつもは師直は駕籠の中にいることになっていて人形は出てきませんが、今回は、師直が出てきました。A班は師直は玉也さん、B班は珍しく勘十郎さんです。また、鷺坂伴内はA班B班とも紋秀さんで、自分への賄賂を要求する様子がコミカルです。


こんな賄賂でころっと態度を変えるのだから、高師直って、割に単純。さすが良くも悪しくも饗応役を仰せつかるだけあって、進物さえすれば、その内容に応じて調子よく相手を優遇し、進物のひとつも送ってこないようなオトナの弁えのない人には冷たいという明快な論理の人。若い者をいじめたり、人の奥さんにちょっかいを出したりしているけれども、比較的、対処しやすいタイプに見えます。そう考えると、やっぱり、刃傷沙汰を起こしてしまう塩谷判官が、早まってしまった感じ。江戸時代にもやっぱりそういう印象を持つ人が一定数いたから、『加賀見山旧錦絵』の「長局の段」でのお初ちゃんの「塩谷殿は大不了見」という発言につながるのでしょうか。


刃傷の段」は、A班が呂勢さん・宗助さん、B班が咲甫さん・藤蔵さん。呂勢さん・宗助さんが迫力はあるのですが、珍しく方向性がイマイチ定まっていない感じでした。咲甫さん・藤蔵さんの方は人物がクリアに描かれ、要所要所がよく考えられている感じがしました。


切腹の段」は、A班が呂太夫さんと清介さん、B班が津駒さんと清友さん。私としては物語の骨格が見えた呂太夫さんの方がよかったかな。ところで三味線のカラニと呼ばれる開放弦を一定のタイミングで弾く印象的な箇所について、清介さんと清友さんではちょっと違っていた印象でした。清介さんはさくさくと一定間隔で弾かれていましたが、清友さんは人形のアクションとある程度タイミングを合わせていた感じでした。今までほかに聴いたことががるのは燕三さんで、燕三さんはこのお二人に比べると音と音の間隔が長かったと思います。長い方が沈黙が続く緊張感が出るので、長いのもありな気がします。色々な人がいろいろな考えで弾き方を変えていて、比べてみると、面白いです。


塩谷判官はA班の和生さんがやはり品格と強い意志が感じられて良いですが、B班の清十郎さんも綺麗でした。清十郎さんは女形の印象が強いのですが、塩谷判官が似合っていて私にとってはうれしい発見でした。原郷右衛門はA班・B班とも玉佳さん。先日の赤坂文楽では玉男さんが忙しいときは玉佳さんが後輩の世話をみているとのことで、「軍曹」と玉男さんから言われていましたが、まさに不在の由良之助に代わって臣下をまとめるという感じです。


そして、由良之助の登場の場面。A班は勘十郎さんが由良之助だったのですが、勘十郎さんの由良之助が切腹の場に駆け付けると、その瞬間に由良之助にスポットライトが当たったように舞台が華やかになり、雰囲気が一変します。その鮮やかな変わり様に、思わずあっと息を飲むほど。玉男さんのいぶし銀のような内に思いを秘めた由良之助は正統派ですが、勘十郎さんの華と色気のある由良之助も、この由良さんで七段目を観てみたい気がします。となると、C班の和生由良之助やD班の玉也由良之助も観てみたいし…。ほんと、大阪の鑑賞教室はうらやましいです。