歌舞伎座 芸術祭十月大歌舞伎 夜の部

一、通し狂言 怪談 牡丹燈籠(かいだん ぼたんどうろう)
 第一幕 大川の船
     高座
     新三郎の家
     平左衛門の屋敷
     伴蔵の住居
     高座
     伴蔵の住居
     萩原家の裏手
     新三郎の家
 第二幕 野州栗橋の宿はずれ
     高座
     関口屋の店
     同 夜更け
     夜の土手の道
     幸手
初演: 昭和49年(1974年) 文学座
原作:三遊亭円朝、脚本:大西信行、演出:戌井市郎
二、 奴道成寺(やっこどうじょうじ)
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/2007/10/post_17.html


打ち出しの鳴物と析の音を後にして、涼しくなった夜風に吹かれながら、幸せな気分で歌舞伎座を出ることが出来た。


「怪談牡丹燈籠」は、幽霊などの怖さで涼をとる、というよりは、人の心の弱さ、恐ろしいものを描いた戯曲(しかし、確かに夏を意図した演出にはなっていて、玉三郎丈が団扇であおぐ場面もあり、あれは日が経つにつれて季節外れ感が出てしまうかも知れませんね)。
また怪談とはいうものの、笑える場面が多く、特に三津五郎丈、玉三郎丈の芸達者振りには大いに楽しませてもらった。今年2月にはSMAP中居クンのコントを見るようなキュートな一面を持つ権太を演じた仁左衛門丈も、二人の前には少し霞んで見えてしまうほど。
この脚本は元々、杉村春子さんが初演する本だったためか、伴蔵よりお峰の方に、より、しどころがあるように思う。伴蔵の故郷栗橋に居を移した後の、お峰が一人寂しい気持ちを述懐するところ、夫婦喧嘩をするところ等々に、お峰の心細さ、哀れさ、可愛さが良く出ていて、伴蔵もお峰も五十歩百歩の悪人のはずなのに、ついお峰の方に同情してしまう。
夫婦喧嘩の場面は、夫婦役者である仁左玉の独壇場。喧嘩のやり取りが丁々発止で見ものであるだけでなく、長年連れ添った感じや喧嘩はしても、本心では憎んでいない様子まで伝わるのは、このお二人ならではですよね。またお二人のお人柄か、喧嘩なのに、どちらも可愛らしい。
それでも最後に悲劇が来るのだが、最後の最後はこうあってほしいという終わり方でよかった。


続く三津五郎丈の「奴道成寺」は、趣向を凝らした華やかで楽しい一幕。冒頭の所化の「聞いたか聞いたか」の後、幕が切って落とされると三津五郎丈が舞台中央に現れる。最初は能写しで、能の衣装と烏帽子を付け中啓を持ち能のような拍子舞。衣装は観世流の枝垂桜と糸巻の文様の唐織に、黒地丸紋尽くし腰巻。途中から歌舞伎の踊りにシフトしていくが、烏帽子がとれて狂言師と分かると、本格的に歌舞伎の踊りとなる。
今回の所化さんたちの年齢の中央値は十代半ばあたりと、とても若いのだけれども、一人ひとりが芸達者で、楽しく見ることができた。特に、右近くんと鶴松くんは、踊りも上手いし、あれだけの短いしどころでアピールできるのだからすごい。
さらに、所化さんの総踊り、三津五郎丈の5月に見た三ツ面子守でみたようなお面を使っての踊り分け、花四天とのからみ、鞨鼓を使っての踊り、鮮やかなぶっかえり等々、スピーディーに、また、時にはひょうきんに踊る三津五郎丈を見ていて、全く飽きなかったし、面白かった。ここまで来ると、演目をまたいでの"三津五郎七変化"を見せてもらった気分。変化ついでに、四の切なども、いつかやっていただきたいと思ってしまいました。
ところで鞨鼓を使っての踊りの時の衣装は、白地に袖は火炎太鼓の模様、身ごろには緑から赤に変わる途中の紅葉が描かれていた。今の季節にぴったりで素敵だけど、桜の背景と合わせるとちょっと微妙…と思い調べてみたところ、どうも紅葉&火炎太鼓&鳥兜の文様は源氏物語の「紅葉の賀」を表す文様とのこと(このあたり参照)。となると鳥兜も文様にあったのかもしれない。勉強になりました。
まあ、話を元に戻すと、とにかく素敵な踊りで、酔ったような心地で歌舞伎座を出ることが出来ました。こういう日は、銀座のそぞろ歩きも一段と楽しいのでした!