歌舞伎座 芸術祭十月大歌舞伎 昼の部

一、赤い陣羽織(あかいじんばおり)
作: 木下順二 初演:昭和二十二年(1947年)(新派)
二、恋飛脚大和往来(こいびきゃくやまとおうらい)
   封印切   新口村
作: 近松門左衛門 初演:正徳元年(1711年)3月 竹本座(文楽)、寛政7年(1796年)角の芝居(歌舞伎)
三、羽衣(はごろも)

http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/2007/10/post_17.html

「赤い陣羽織」
女房(孝太郎丈)の夫であるおやじ(錦之助丈)と女房にご執心のお代官様(翫雀丈)が、お互いそっくりなことから騒動がおこることになっているのだが、舞台上のおやじとお代官様が全然似ていないのが、ご愛嬌。イヤホンガイドを聞いていたら、翫雀丈の出のときに、念押しするように「そっくりですよね」との解説が入り、思わず噴出しそうになってしまった。こういう設定は、文楽なら破綻ないのだが、生身の人間だとさすがに難しい!あるいは、おやじとお代官様が同じ舞台に立つことはほとんどないので、実は一人二役が前提になっているのかも?

登場人物の中で一番気に入ったのは、お代官の奥方(吉弥丈)。先代萩の八汐の姿をした身替座禅の玉の井というような役柄。吉弥丈は成田屋ばりの睨みをきかせて物語の最後をスカっと決め、見ている方もすっきりした。

この「赤い陣羽織」は、バレエ「三角帽子」の翻案物ということだ。三角帽子は音楽としてしか聞いたことがなかったので、こんな話だとは知らなかった。しかも勝手に、とんがりコーンの形をした帽子を被った小びとさん達のダンスのための音楽かと思っていて、大好き!とまで公言していたのだ。しかし、「赤い陣羽織」の原作ということであれば、この「三角帽子」は、ベルばらでオスカルが被っているあの三角帽子(こちら参照)に違いない。そして物語も横恋慕したお代官の情けないお話なのだろう。今後はバレエを見てどんなお話なのか確かめるまで「三角帽子」が「大好き」と言うのは自粛することにしよう。歌舞伎座バレエ音楽について知るとは!


「恋飛脚大和往来」
歌舞伎にはお茶屋さんが出てくる話がいくつもあるが、私はこのお茶屋さんのセットが大好き。まず、インテリアが素敵。壁の色がヨーロッパの建物の内装みたいに暖色だったり、暖簾、衝立、仲居さんの前掛けまでが同じモチーフのデザインで統一されていたりする。

「封印切」は、忠兵衛(藤十郎丈)と八右衛門(三津五郎丈)の封印を切ってしまうまでの喧嘩の掛け合いが面白い。こういう場合はどれだけ悪役が悪いやつになりきれるかも面白さを決める重要な要素だ。その点、三津五郎丈は関西弁を駆使して藤十郎丈と真っ向勝負。喧嘩なのだがいいコンビだ。ところで口喧嘩になる前に三津五郎丈が忠兵衛の悪口を言うために忠兵衛の口真似というか藤十郎丈の真似をするのだが、それがすごく似ていて笑ってしまった。
「新口村」は、一面の雪の中、梅川(時蔵丈)と忠兵衛の二人が着る黒に梅の文様の衣装が映えて、本当に美しい。梅川は女性で梅の連想からか鴇色の指し色の衣装で、忠さんの方は浅黄?色の指し色。いつの間に誂えたのだ、とか、お梅さん雪の中裸足では凍傷になるよとか、そういったことは、美しければどうでもいいのだ。孫右衛門(我當丈)は、養子に出しはしたものの、いつまでも子を思うが親という様子がよく出ていた。本当は藤十郎丈の方が我當丈より年上なのに、それでも父親に見えてしまうから不思議だ。我當丈の芸というのもあるだろうが、とにかく藤十郎丈が若い。


「羽衣」
またしても玉三郎丈の美しい踊り。本当に天女の様。衣装はいつものとおり紛れも無く江戸時代以降の様式なのだけど、踊りの振りによって高松塚古墳の女子群像のような古風な風情を見せる。いつも驚かされる玉三郎ワールドだ。