国立能楽堂 普及公演  仁王 雲林院

解説・能楽あんない 業平の秘事 馬場あき子
狂言 仁王(におう) 大藏吉次郎(大蔵流
能   雲林院(うんりんいん) 衣斐正宜(宝生流

http://www.ntj.jac.go.jp/performance/1101.html

解説・能楽あんない 業平の秘事

業平の秘事とは、藤原高子との恋と、伊勢斎宮恬子内親王との恋を指しているとか。馬場さんによれば、秘密とは、誰でも知っているが公には言えないこと、とか。言いえて妙。

業平は、「体貌閑麗。放縦ニ拘ハラズ。ヤヤ才学無シ。善ク倭歌ヲ作ル」(三代実録)と評されているとか。これは、はっきりした顔立ちで、気ままな性格、漢籍(特に軍法等)の知識がなく、和歌が上手い、というような意味だとか。如何にもプレイボーイ然とした様子がよくわかる、というものだ。

その出生の不幸から不遇な待遇を受けていた。そのため、色好みに走ったのだそうだ。色好みにおける彼のプライドは手の届かない女性を手に入れること。それゆえ、高子との恋や伊勢斎宮との恋をしたのだとか。最終的には高子の力添えもあったとのであろう、悪くない地位を得たという。

馬場さんが、まるで女学生のようにいきいきと楽しそうに話されていて、こちらまで楽しい気持ちになった。私も年をとったらああなりたい。


仁王

博打に負けた博打ちが、仁王像に化けて参詣人から賽銭を巻き上げようとする。一度目は上手くいくが、二度目はそう上手くは行かなかった。先ほどと同じ参詣人達が来たのだが、仁王の姿勢が先刻と違うことに気がついて。。。という話。

参詣人が一人一人、願い事を言っていくのだが、最後の二人は、ブラジルに行っている家族が今日帰ってきますが、無事でありますようにとか、日本経済の安定を祈願とか、入れ事があって面白かった。狂言でも、こういったアドリブがあるのは、面白い。


雲林院

伊勢物語を題材にした能の一つ(他に、井筒、杜若、小塩、隅田川)。

子供の頃から(!)伊勢物語の大ファンである公光という人が、二条后ゆかりの雲林院に行くと、老人に会う。その老人が昔男と名乗るので、さては、業平では、というと、果せるかな、業平であり、伊勢物語の秘事を説き明かす、というお話。

自分が子供の頃から好きだった話の主人公と会えて、かつその物語の内容について自分だけに説き明かしてくれるなどという、本好きには堪らない内容で、楽しみにしていた。が、思ったような感じではなかったので、ちょっと拍子抜け。

なぜかと言うと、いまいち、現代のかっこよさとは少しずれていて、あれ?という感じがしたのだ。。。まず、公光という人は、いくら伊勢物語が大好きとはいえ、伊勢物語の巻物を首からぶら下げて歩いている。これはいかん!貴公子に心酔しているなら、自分も貴公子を見習うくらいでいてほしい。で、当の業平はどうかというと、これが、面も装束もイマイチ、カッコ良くない。舞いもやさしいかんじなので、なんだか、いかにも、「ぼくちゃん、高子ちゃんが好きなんだもーん」とか言いかねない様子に見えるのだ。少なくとも、今の時代のプレイボーイとか、色男、という概念とは、ちょっと外れたところに、おはすと見えにけり。

というわけで、今回のパフォーマンスというよりは、この演目そのものを掴みかね、なんだか、拍子抜けのまま、観終えたのでした。