大阪松竹座関西・歌舞伎を愛する会 第十七回 七月大歌舞伎

昼の部
  一、春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)

  二、片岡十二集の内 木村長門守(きむらながとのかみ)
     血判取
  三、伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)
     花水橋
     御殿
     床下
     対決・刃傷

夜の部

  一、一谷嫩軍記
     熊谷陣屋(くまがいじんや)

  二、黒手組曲輪達引(くろてぐみくるわのたてひき)
     浄瑠璃「忍岡恋曲者」

  三、上 羽衣(はごろも)
     下 団子売(だんごうり)http://www.kabuki-bito.jp/theaters/osaka/2008/07/post_13-ProgramAndCast.html

どうも私の日常に歌舞伎成分が足らない気がして、松竹座まで見に来てしまった。あまり夏芝居的要素はなかったけど、大顔合わせなので、堪能できた。ただ、ひとつ松竹座に要望を言ってよければ、売店を充実させてほしいです。売店のある2階のフロアは、売店が壁沿いにしかなくて、フロアの真ん中が不思議な空間になっている。売店をもっと配置してお客の動線歌舞伎座のように迷路みたいにして、そこに色々な種類のお弁当、お土産、ちょっとしたsweetsを多種売ってくれると、とっても盛り上がって楽しいと思います!


昼の部


春調娘七種

元々曽我物の狂言の前に演じられた踊りとか。曽我兄弟フィーチャリング何故か静御前。大磯の虎とかではないのか?と思うが、恐らくドリームチームとか、オールスターとか、ディズニープリンセスとか、そういう発想なのだろう。もちろん、時代考証的に間違っていることなど百も承知でお客さんも見ていたに決まっている。江戸時代って素敵。


片岡十二集の内 木村長門守 血判取り


のっけから火鉢を囲んだ武士が出てきて、ちょっと暑苦しかったかも。こういう史実があったとは知らなかった。ただ、血判を取りに行って無事もらってくるというだけの話なので、「二条城の清正」と同じで、はあ、そうでしたか、という感想のみになってしまうのは、ちょっと残念。十一代目が演出を工夫したものが片岡十二集になっているというが、どういった工夫をしているのか知っていれば、もっと楽しめるのかもしれない。家康役の左団次丈は、いかにもタヌキおやじという感じで、タヌキおやじ的イコンの家康像としてはぴったり。


伽羅先代萩


花水橋


足利頼兼役の菊之助丈が素敵。歌舞伎の御曹司はかくあってほしいというのをそのまま体現してくれたような演じぶり。立ち回りも決まっていた。

そうそう、歌舞伎の立ち回りでは、特にシンになる役者さんの所作があまりに様式化されすぎていて、まったく緊迫感が無く、立ち回りの場面が退屈な場面になって返って逆効果の場合もある。ところが、今回の立ち回りでは、菊之助丈は、優雅に刺客をかわすところと、扇を使って反撃するところの急緩がはっきりしていて観ていて面白かった。また、愛之助丈の絹川谷蔵も力士らしさが良く出ていた。


御殿


仁左衛門丈の八汐が観れるとあって、楽しみにしていたのだが、竹の間がなかったので、あの丁々発止のやり取りが観れず、残念。藤十郎丈の正岡の素晴らしさは言うにや及ぶ。ところで、八汐が千松を刺し殺す時、政岡は鶴千代を自分の懐に入れるようにして抱きとめるのではなく、上手の障子家台に逃がしていたのは、初めて見る型。藤十郎丈のことだから本行ではそうなっているということなのだろうか。


床下


とにかく仁左衛門丈の仁木弾正がかっこよすぎた。非の打ちどころがない!先代萩浄瑠璃ではなく歌舞伎が初演ということだが、さもあらん。文楽ではおそらく無さそうな、人間の役者であればこそ、美しく見える型が、ちりばめられている。


対決・刃傷


お白州での細川勝元役の菊五郎と弾正の仁左衛門丈のやり取りが圧巻。いつもは、勝元の長台詞に飽きてきて、勝元の虎の威を借りる狐の話に「飽きた」という山名大全に内心同意することも多かったのだけど、今回は、面白く聴くことができた。

左団次丈の渡辺外記は、そう簡単には陥れられない、一筋縄ではいかない人物という感じ。以前みた段四郎丈の外記は真面目一徹で何かすぐ罠にはまりそうだった。そういえば、山名大全を見てたら芦燕丈を思い出した。最近舞台で拝見しないけど、お元気なのだろうか。


刃傷の場も、ぞくぞくするほど面白かった。しかし、弾正がなかなか死なないのは笑ってしまった。お江戸はあっさりしたがるけど、上方向けには、ちょっと濃い目の方が良いのだろうか。ところで、イヤホンガイドによれば、この立ち回りの際の下座音楽は、お能の序ノ舞と早舞とのこと。たしかに、羽衣等で聴いた、序ノ舞(太鼓無し)と同じ調子だった。しかし、そうであれば、なかなか興味深い選曲だ。何故なら、太鼓入りの序ノ舞は、草木の精や仙人、美男の遊楽的な華やかさを出すための囃子だからだ。これは一重に色気のある弾正のための音楽、弾正役者のための場面ということになる。


最後、勝元が弾正との立ち回りで傷を負った外記に薬湯を勧め、更に舞を舞うよう促す。左団次丈がやると薬湯もおいしそうな抹茶に見えて、面白かった。また、勝元が今にも死にそうな外記に向かって舞を舞うよう言う時はいつも「人でなし!」と思うのだが、左団次丈は、結構足元もしっかりで死にそうにも見えないので、勝元が人でなしに見えずに済んだ。


夜の部

熊谷陣屋


仁左衛門丈の熊谷直実が見れて満足。上方役者で固められていて若干不思議な雰囲気ではあったが。。


最後の幕外も、おもいっきりたっぷり。やはり上方には、こってりした芝居が似合うのか。


黒手組曲輪達引


せっかく新幹線にのって大坂まで来たのに、お江戸のお話で、何か、複雑な気分。幕が開いて、先週末、東京見物の友人を案内したばっかりの上野の不忍池の書割を見た時は、心底がっかりした。それでも、さすがの菊五郎劇団を擁して江戸狂言をやらない法は無い。お正月の国立劇場に来たような錯覚を感じながら、御池のカモやら、阪神のマスコットやら、カーネルサンダースのかぶり物やらが出てくるお遊びも満載で、楽しんだ。


羽衣


白龍が水衣ではなく直衣に腰蓑を着けていて面白かった。お能を見てる時は言えないけど、やっぱり、水衣ってちょっとカッコ悪いとみんな思ってるんだと密かに納得。長唄の歌詞は、要所要所、お能の詞章を取り入れている。そして何より、自分が一度見ただけのお能の詞章を覚えていることに感動した。それだから、羽衣は人気曲なのだ、と納得した。菊之助丈の天女は、玉三郎丈に匹敵する美しさ。羽衣に着がえた天女は、優雅な舞を舞う。その時もやはり、序ノ舞。長唄が上手で演奏されている所に、長唄とは合わせずに、下手で囃子方が序ノ舞を演奏していて、音が混ざって、ちょっと不協和音だけど、おそらく、能がかりの長唄の曲の「文法」では、OKなのだ。


団子売

松嶋屋、孝太郎丈と愛之助丈の息の合った舞台。これだけ息が合うのもすごい。


という訳で、松竹座を後にしたのだったが、大阪の夜は、むし暑かった。。。