サントリー美術館 小袖 江戸のオートクチュール

小袖 江戸のオートクチュール
2008年7月26日(土)〜9月21日(日)

http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/08vol04kosode/index.html

最近、お能の装束の文様に興味が出てきたので、その流れで観に行ってきました。

見て感じたこと:

(1) 紅色というのは、退色が進みやすい色だということ

紅色が退色してしまっている小袖が多かった。能装束は紅色のものが多いが、どれも美しい状態で伝えられているということは、染め直し、刺繍・綻びの修繕など、実に多くの手間をかけられているということだろう。

(2) 歌舞伎の紙衣は、粋の象徴だということ

肩の部分に、まるで歌舞伎の紙衣のように和歌を題材とした文字を刺繍してある小袖があった。これらが意外に品よく見えず(ちょっと極端にいえば、革ジャンに「夜露死苦」と刺繍するようなセンス、あるいは演歌歌手の衣装のようなセンスに見えなくもない)、歌舞伎の紙衣の方がずっとおしゃれ。そう感じたところで思ったことは、歌舞伎の紙衣姿というのは、紙衣とはいいながら粋で豪華な衣装を着る、というところに面白味があるに違いない、ということだ。だから、普段「紙衣といいながら、紙衣を着ていないじゃん、まあいいけど」などと思ってしまう私は鑑賞ポイントを外した見方をしていて、本来、「総身が金じゃゆえに、こう冷える」などと言っているアホボンを演じている人気役者の紙衣姿が豪華なことに、おかしみを見出すのが、正しい楽しみ方なのだ。きっと。(細かいか)

その他、面白かったものをいくつかメモして備忘録としておこう。


段替り扇面貝模様小袖裂(地質:練緯、地色:紫・茶・白、時代:桃山時代

海松(みるめ)の意匠が描かれていた。海松というのは和歌に良く出てきて「見る目(会う機会)」と掛詞になっているのが常だ。海藻ということは知っていたが、実在するものだとは思っていなかった。実在するどころか、平安時代は食用にされていたらしい。たしかに下記の写真を見るとおいしそう。。ところで、この小袖にある海松の文様は、下記の図にある海松文のようではなく、萩の葉のような感じだった。
http://www.bioweather.net/column/ikimono/manyo/m0607_1.htm

竹に雀模様小袖(地質:紋縮緬、地色:濃萌葱、時代:江戸中期)

思わず、伽羅千本萩の政岡を思い出す。とはいえ、単なる文様で関係は無さそう。あるいは、歌舞伎好きの持ち主で、政岡のキャリアウーマンらしさを演出したい時の勝負服だったのかも。

流水牡丹に縞文字模様小袖(地質:縮緬、地色白・浅葱、時代:江戸時代中期)

肩から袖にかけて「キミガヨハ チヨニヤチヨニ」とカタカナが刺繍されている(一部の文字は刺繍糸のほころびで欠損している)。和漢朗詠集の歌とあったので、古今和歌集では?と思ったら、古今和歌集の方は、本来「わが君は」で始まるため、正確には和漢朗詠集での出が一番早いとのこと。意外なところで和歌のお勉強となった。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%9B%E3%81%8C%E4%BB%A3#.E5.92.8C.E6.AD.8C.E3.81.A8.E3.81.97.E3.81.A6.E3.81.AE.E5.90.9B.E3.81.8C.E4.BB.A3

近江八景模様小袖(地質:縮緬、地色:萌葱、時代:江戸時代中期)

ほぼ同じものを最近の東博の平常展で見た気がする。オートクチュール、というよりは、プレタポルテか。それで思ったのだが、ここに展示されているような素晴らしい衣装の難点は、一度見たら忘れられないことだろう。気に入っているからといって、さりげなく、何度も着るのは難しそう。

丸文散らし模様縫箔(地質:絖、地色:縹、江戸時代後期)
能装束。縫箔は普段は腰巻として使われることが多いので、全体が見えることはない。きちんと手抜きなしに肩のあたりにも文様が入っていて感心した。

花卉模様更紗間着(地質:木綿、地色:白、時代:江戸時代中期〜後期)

白地に華やかな赤い花と葉の文様のインド更紗。その上に納戸色の着物を着るのがおしゃれだったのだという。

雛形(ひいながた)群

小袖のデザインのサンプル図録集。そういえば、西洋でもドレスを図録で注文するというのがあったなあ。時代が下るけど、森鴎外が娘の森茉莉のドレスを誂えるためにドイツからカタログを取り寄せていたというエピソードを思い出した。