清水寺と地主権現(1)


先に書いたとおり、土曜日の夕方は文楽劇場文楽を見たのだが、その前に京都に寄った。


最初、文楽は昼夜通しで観ようかと思ったのだが、文楽劇場への到着時間とか土日の天気等つらつら考え、昼の部は翌日にまわすことにした。

結果的には、その時とりあえず大阪に行っていれば、二部も観ることが出来たのかもしれないけど、まあ、仕方ない。


で、新幹線に乗り込んでから、京都とは言ってもどこに行くか考えた。

最近、東博で「清水寺縁起絵巻」を観たり、寛永寺の両大師で「御車返しの桜」を見たり(同じ名前の桜が清水寺の鎮守社「地主権現」にあるという)、仕事の都合で観ることが出来なかったけど国立能楽堂で「田村」(この謡曲の典拠が清水寺縁起)の公演があった等々、清水寺に縁付いている気がしたので清水寺に行ってみることにした。大体、劇場以外の人ごみは避けて通りたい派なので、私にとっては冬枯れの清水寺の好都合だ。

実は、滋賀県愛宕郷小野の方に行ってみようかともちょっとだけ考えた。というのも、新幹線が滋賀県に入ったところで窓の外を見てみると、滋賀県だけは雪が残っていて、滋賀県+雪で、在原業平の「忘れては夢かとぞ思ふ思ひきや ゆきふみわけて君を見むとは」という歌を思い出したからだ。

これは、伊勢物語古今和歌集にある歌で、在原業平が、惟喬皇子を小野宮に訪ねた時の歌だ。長年年齢を超えて親しく使えてきた惟喬皇子が清和天皇との皇位争いに敗れ、突然落飾した。驚いた業平は、比叡山の麓の小野宮に篭ったのだが、それはちょうど陰暦の三月末で雪が高く積もっているところを踏み分けて尋ねていったのだった。

「そうだ、この雪の残る日に小野に行かずしてどうするというのか!」と思い、具体的にどこに行けばいいのかケータイで検索してみたものの、イマイチ不明。すぐ京都についてしまったので、あっさり諦めて、清水寺に行くことにした。


さて、その清水寺

清水寺に行くには、ご存じの通り、(a)二年坂と三年坂から行く道、(b)清水坂から行く道、(c)五条坂から行く道等がある。(a)の二年坂から三年坂に至る道と(b)の清水坂を通る道は清水寺詣の王道という感じがする。とりあえず101系統のバスに乗った私は、「五条坂」のバス停で降り、一番人が少なそうな気がする(c)の五条坂→清水新道を通っていった。歩きながら、阿古屋で清水寺の門前の坂で景清に出会ったというクドキがあったことを思い出した。後で床本を確認してみると、阿古屋が重忠に問われて、景清との馴れ初めを話すところは、こうなっている。

野山を越へて清水へ日毎日毎の徒歩詣。下向にも参りにも道も変らぬ五条坂、互に顔を見知り合ひ、いつ近づきになるともなく、羽織の袖のほころび、ちよつと時雨のからかさ、お安い御用。雪のあしたの煙草の火、寒いにせめてお茶一ぷく、それが高じて酒一つ、こつちへ思へばあちからも、くどくは深い観音経。。。

鶴澤八介メモリアル 「文楽」ホームページより

面白いのは、表玄関的な「清水坂」ではなく、どちらかというとマイナーに思える「五条坂」の名前が挙がっているところ。阿古屋と景清も「人ごみ苦手」派だったのだろうか?

これには理由がある。実は、秀吉の時代まで、清水詣といえば、五条通から五条橋にを通って行くものだった。今の地理で考えると、何故、都の中心から遠い五条から入るのか一見不思議に思えるが、そもそも昔は、清水寺に一本道でつながる今の「松原通」と呼ばれている通りが、「五条」と呼ばれて、鴨川に掛かる「松原橋」は、昔は「五条橋」だったのだ。今でも「松原通」は鴨川を越えて東大路通にぶつかると「清水道」となって清水寺に通じる道となる。何でも、豊臣秀吉方広寺に大仏を作るときに、五条通の南に運搬用の橋を作り、それを五条橋(今の五条大橋)と呼んだことから名前が変わってしまったとか。

だから、この浄瑠璃は、既に五条橋は既に今の場所に移ってしまっていた江戸時代に書かれたけど、鎌倉時代を舞台にしているから、「五条坂」と言っているのだろうか。ややこしい。。。今のところ、鎌倉時代清水道五条坂という坂があったのかどうかまでは、良くわからない…。


ちなみに、五条橋は桃山時代はこんな感じだった。洛中洛外図屏風歴博本)のリンクで、右の中央から下ぐらいの辺りに五条橋がある。で、この橋、欄干と手摺がない。桃山時代でこういう状態なら、もっと遡る平安末期も同じようなものだろう。これでは牛若丸は弁慶との小競り合いで欄干に飛び乗るわけにはいかなそう。
http://www.rekihaku.ac.jp/gallery/rakutyuu/base/right21.html


ところで、五条坂経由で清水寺に向かっていると、古い二階建家屋の一階の屋根の上に時々、仁王様みたいな像を見つけた。何かと思いきや、「鍾馗像」というのだとか。
http://www.scollabo.com/hanpu/hanpu_01.html


と、横道に逸れていては、全然、清水寺に行き着かない。とりあえず、この話は何日分かに分断することにしよう。