日本橋三越 土門拳の昭和

生誕100年記念展 土門拳の昭和
09年2月24日(火)〜09年3月8日(日)
http://www.mitsukoshi.co.jp/store/1010/domon/

土門拳の写真展を見に行った。

なんといっても素晴らしいのは、古寺巡礼のお寺や仏像の数々。そのためか、入場してすぐのところには、白黒の室生寺の特大パネル。ぐーっと土門拳の世界に入り込んでしまった。


その次にあるのは、彼が若い時に撮影した戦前(昭和11〜13年頃)の浅草や銀座等の風景。この辺りに展示されている写真は、そんなに上手いという訳でもない。土門拳でさえ、最初は下手な写真から始まっているかと思うと、写真を撮るのが苦手な私としてはうれしくなる。さらに早稲田、現お茶女の卒業アルバムもある。モダンで大胆なレイアウトの写真の中の学生達は、皆、曇りない明るい顔をしているのが印象的た。印象的といえば、戦前は写っている女性が大体着物を着ている。これが戦後になると、着物を着ている人はぐっと少なくなる。それから敗戦直後の貧しい人々の写真。戦争が全てを変えてしまったということが良く分かる。


お楽しみは、文楽関係の写真だ。数としてはあまりないけど、興味深い写真が多い。文雀師匠の師匠、文五郎師に、熊谷の制札の見得をしている栄三師。そしてその幼い弟子、簑助師匠が舞台裏に座って一休みしているところ。なんせ簑助師匠はまだ子供なのでキャプションを見るまで気がつかなかったが、いわれてみれば、確かに面影がある。それから、談笑する若い古靱大夫と清六師(すごい!)に、清六師(?)の櫓下(番付上の名誉の殿堂みたいなもの)昇格の手打式の様子。舞台に裃姿の関係者が並び、文楽まわしの上に太夫と三味線がいるのはいいとして、満員の客席の通路に編笠を被って大きな竹竿を二人で分担して持っている人達は何なのだろう。気になる。

さらに、戦火等のために今は無くなった人形達。今の人形とは随分と印象が違う。今の人形の首はもっとすっきりしているのだ。特に老女方の首は能面の若女や増女に似ていて、勝手に人形浄瑠璃に残るお能の影響なのかなと思っていたが、全然違った。もし戦前の文楽人形が今も主流だったら、まったく違った印象になるだろう。


他に、昭和の作家、画家、イサム ノグチ、富本憲吉、先代團十郎、先代梅玉、古寺巡礼の題字に薬師寺浄瑠璃寺等の写真、土門拳の愛用の品々等々。


土門の人々を見つめる温かい目と、写真の中の人々のいきいきとした姿に勇気づけられ、何だか元気になれる展示だった。