歌舞伎座さよなら公演 六月歌舞伎

<昼の部>
  一、正札附根元草摺
  一、双蝶々曲輪日記 角力
  一、蝶の道行
  一、女殺油地獄

<夜の部>
  一、門出祝寿連獅子
  一、極付 幡随長兵衛 「公平法問諍」
  一、梅雨小袖昔八丈 髪結新三
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/2009/06/post_43.html

6月は久々に昼夜双方観られて大満足でした。


<昼の部>

一、正札附根元草摺

それほど好きという訳の演目でもないのだけど、魁春丈の虎御前に松緑の五郎ということになると、とたんに面白く感じる。

一、双蝶々曲輪日記 角力

期待していたが期待以上の内容だった。吉右衛門の長吉を見て、ああ、長吉ってこういうキャラクターなんだと、初めて納得した。今まで放駒の役者が格がずっと上の役者で、長吉が花形というパターンしか見ていなかったのでピンとこなかったが、今回のように幸四郎の放駒に吉右衛門の長吉というように力が拮抗している方がずっと面白い。こういう風に今までピンとこなかったものを、役者が鮮やかに観せてくれて腑に落ちる瞬間というのは楽しい。それにしても、吉右衛門、若い。。


一、蝶の道行

福助丈と梅玉丈の踊り。うっとり。ただ、暴騰に出てくる大きなグリーンのLEDの蝶二頭はちょっと微妙だったかも。


一、女殺油地獄


仁左衛門の一生一代。


2005年7月の松竹座での海老蔵丈の代演も思わず観に行ってしまったが、今回も観れて本当によかった。代演の時は、目の前で起こっていることが夢かうつつかという信じられない気持ちと仁左衛門丈の熱演に対する熱い応援という独特の客席の雰囲気の中、普通にお芝居を観るのとは、ちょっと異なる感覚だった。今回は、改めてしっかりと観ることができて、本当にうれしかった。


お芝居の状況に応じてくるくる変わる与兵衛の表情に惹かかれた。総括してみれば、与兵衛は全く自分のことしか考えていないといえるが、その利己主義な彼の中にも養い親に対してありがたいと思う気持ちや、改心してお吉に洗いざらい話そうと思う気持ちがある。一瞬一瞬は本当の気持ちなのだ。けれどもそれは長くは続かない。当代を代表する魅力的な名役者が、身の毛のよだつようなことをしでかす与兵衛を演じるだけに、観ている者の胸には、一層複雑な思いが交錯する。


それにしても、仁左衛門の与兵衛はすごかった。与兵衛は実在の人物ではないかもしれないが、確かに2009年6月、歌舞伎座の舞台上に存在していた。近松仁左衛門を得て女殺油地獄の世界を十二分に表現でき、満足だろう。


そして、最後の最後に祖父の当たり役を同じ舞台で観た千之助くんは、どう思ったのだろうか。十数年後、ある日、歌舞伎座大広間の翌々月の演目の掲示に、「油地獄」があって、千之助の与兵衛、孝太郎のお吉、仁左衛門の徳兵衛なんて配役が書いてある可能性もあるのだと思うと、感無量。千之助くん、是非このまま、立派な歌舞伎役者になって下さいね。


さぼりぎみの自称歌六ウォッチャーではありますが、今回の歌六丈の徳兵衛役も大満足。与兵衛を追い出した後、玄関の柱にしがみ付きながら、「あいつが顔つき、背恰好、成人するに従い、死なれた旦那に生写し。あれあの辻に立つたるなりを見るにつけ、与兵衛めは追出さず、旦那を追い出す心がして、勿体ない」というところは、こちらまで胸がつまりました。


<夜の部>

一、門出祝寿連獅子

斎くんの初舞台スペシャルバージョン、口上付。いやはや、毛振りまでするとは思いませんでした。末恐ろしい。


一、極付 幡随長兵衛 「公平法問諍」

殺されると分かっていても子分達のために、行かなければならない親分の辛さ。吉右衛門丈の幡随院長兵衛と仁左衛門丈の水野十郎左衛門の一騎打ち!かっこいい。やっぱり、こういう座頭級の役者が対決するというパターンが一番面白い!(話自体はそれほど面白いってもんでもありませんでしたが。。)

ちなみに、水野十郎左衛門というのは、旗本ながら相当ワルだったようであるが、仁左衛門丈の水野十郎左衛門は元禄忠臣蔵の綱豊卿かと思うほど貫禄と気品があった。長兵衛との立ち位置上、そうなったのかな?


玉太郎くんが、あまり観ないうちに上手くなっていてびっくり。


一、梅雨小袖昔八丈 髪結新三

幸四郎丈お得意の髪結新三。笑わせてもらったが、スカッと江戸っ子的な粋も欲しかったかも。福助丈の手代忠七が女形のときとは全然違った良さがあってよかった。萬次郎丈の女房おかくが面白かった。意外。