東京国立近代美術館フィルムセンター 山中常盤

1/19(火) 6:00pm、1/23(土) 0:00pm
喜多かしこ生誕100年記念事業 川喜多賞受賞監督作品選集
山中常盤
(100分・35mm・カラー) 近世初期に活躍した絵師、岩佐又兵衛による長大な絵巻「山中常盤」全巻を撮影。牛若丸とその母・常盤御前の物語を浄瑠璃で表現しながら、絵巻にこめられた又兵衛の思いやその人物像にも迫る。
2004(自由工房)(監)羽田澄子(撮)若林洋光、宗田喜久松(美)朝倉摂(音)鶴澤清治(出)片岡京子(解)喜多道枝
http://www.momat.go.jp/

MOA美術館所蔵、岩佐又兵衛の山中常盤絵巻に、文楽三味線の人間国宝鶴澤清治師匠が曲をつけた映画。山中常盤は江戸前期に流行った古浄瑠璃だそうなので、まさにこんな風に絵巻や傀儡師があやつる人形を見ながら聞いたのかしらん。今週の土曜日も上映されるそうだけど、都合が悪いので無理矢理平日に見に行ってしまった。前から見たかった山中常盤を見ることができて大満足。


山中常盤絵巻は、以前、サントリー美術館かどこかで少しだけ見たが、十二巻全体を見たのは今回が初めて。十二巻の隅々まで極彩色で濃厚な又兵衛ワールドが展開していて、それほど又兵衛が好きでない私も、これは脱帽だ。それに、もしここにある詞書が正しいのなら、又兵衛くんはかなり詞書を自由にとらえて勝手に又兵衛ワールドを展開しております。

前半は常盤御前の道行がとても楽しい。実は絵巻の詞書の冒頭に道行があって、それがなかなか風情があってよい。なのに映画ではそこがばっさり削られていたので「日本の古典芸能は道行こそがいいんじゃん!」と思ったが、そこはさすが羽田監督、ちゃんとたっぷり常盤御前の道行を用意していたのだった。

前半のクライマックスは、常盤御前が殺されてしまうシーン。絵巻の代表的場面としてもよく紹介される常盤御前の最期はかなりショッキングだけど、その後の義経の敵討ちの場面も相当のもの。さすがに美術館で展示はしにくいかも。それにしても、残虐な敵討ちをした義経の高揚して、心底、晴々とした表情はどうだろう。又兵衛が子供の頃、彼の一族はほとんど惨殺され、母親も首をはねられる。映画の中で「又兵衛は、この山中常盤の中で敵討ちをしたいという願望を実現したのではないか」というようなことが語られるが、この、敵をとった喜びを隠さない18才の義経の絵を見ると、私もついそのように思ってしまう。


音楽はとにかく清治師匠の作曲が素晴らしい。呂勢大夫の語りは普段聞くほうがずっと迫力があるかな(特に最近は!)。さすがに十二段も語るとなると、ペース配分が大事なのかも。それでも、呂勢さんの語りに、清治師匠&清二郎さんの三味線、清志郎さんの胡弓と、大好きな組み合わせで堪能しました。囃子方も、いわゆる下座音楽の範疇だけでなく、能楽雅楽、神楽からヒントを得た音楽も取り入れ、工夫がされていて、聞いていてとても面白かった(あえていえば、エコーが効きすぎで、若干違和感がなくもなかった。。。)。


<おまけ>
山中常盤の詞書部分が下記に掲載されています。映画では、又兵衛ワールド更に脚色されています。
http://www.jiyu-kobo.com/kotobagaki-top.htm

スタッフ&キャスト
協力  MOA美術館
    安岡章太郎
    辻惟雄

製作  工藤充   
演出  羽田澄子
撮影  若林洋光
    宗田喜久松
照明  中元文孝
録音  滝澤修
ヘアメイク 高橋功亘
原版編集 加納宗子

作曲  鶴澤清治
作調  仙波清彦
浄瑠璃 豊竹呂勢大夫
三味線 鶴澤清治
    鶴澤清二郎
胡弓  鶴澤清志郎
囃子 小鼓・打物 仙波清彦
  大鼓・打物 望月圭
太鼓・打物 山田貴之
笛   福原寛
デザイン 朝倉摂
ピアノ 高橋アキ
ナレーション 喜多道枝
出演  片岡京子