サントリー美術館 国立能楽堂コレクション展「能の雅(エレガンス) 狂言の妙(エスプリ)」

開場25周年記念 国立能楽堂コレクション展「能の雅(エレガンス) 狂言の妙(エスプリ)」
会期:2010年6月12日(土)〜7月25日(日)
1.能面、
2.能装束
3.特別展示 桃山時代の能装束、加賀前田家の能装束
4.狂言
5.狂言装束
http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/10vol02/program.html

いつも国立能楽堂の展示室で見てるから特に行かなくてもいいか、と思ったけど、行ってみたら、見た記憶があるのは一部だけで、後は見たことがない(か、見てもすっかり忘れている)ものが多くて結構楽しめました。

一番面白かったのは、お能道成寺」で使う作り物の鐘の展示。3F展示室の階段下にあります。

検索で見つけてこのページを見ているお能を観たことがない方のために書き添えておきますと、お能の一番の人気曲といっていい「道成寺」では「鐘」が陰の主人公といっていいくらい大きな役割を果たします。鐘は、除夜の鐘等でおなじみのあの梵鐘です。お能で使われる小道具の鐘は、ヒト一人入るのがやっとという大きさで重さは100kg近くあります。これを能舞台の天井近くから釣下げて、物語の前半のクライマックスの場面で天井から一気に落下させます。そしてその時、恋に狂った主人公の娘が鐘の中にパッと飛び込むという非常に危険なパフォーマンスをして、おお!ということになるのです。その後、落ちた鐘が釣り上げられる時には、装束も面もすっかり変わり果てて嫉妬のあまり蛇になった主人公が現れ、さらに、おおお!ということになるのです。

狭い鐘の中で主人公を演じる能楽師がどうやって装束や面を変えるのかは謎ということになっているのですが、色んな能楽師の人が色んなところで書いたりしゃべったりしているので、お能が好きなヒトは鐘の中がどうなっているのかは大体知っています。けれど、実際に目にする機会というのはあまり無いのです。

で、その作り物の鐘は、鐘床面から50cmぐらいという、「中を見せるために釣ってるんじゃないけど、見たいんなら見れば」的な微妙な高さに釣り下げられていている。それでは、と床に膝をついて思いっきり下から鐘の中を覗き込んで見たところ、中の様子がちゃんと見えました(とゆーか、そんなことしている人は居なかったので非常にこっぱずかしかったが、展示されていたらせっかくだから見なくてはなるまい)。これだけでも見に行った甲斐があったかも。サントリー美術館さんも、あと20〜30cm釣り上げてくれるとだいぶ見易いのだけど。床に落下した場合のことを考えて、あの高さにしてあるのかしらん。


それから、新出の「百万絵巻」(室町〜桃山時代、15〜16世紀)。米国に流出していたのを国立能楽堂が買い上げたとかいう話だったような。先日、国立能楽堂でも展示されていたけど、こちらでも展示されてました。ただ、開いてある場面がほんのちょっとなのが、惜しい。で、百万絵巻の中で私にとって印象的な場面は、間狂言の場面で、私の記憶が正しければ、天井に張り巡らされた紅白の縄の上を、赤頭に括袴で這いつくばりながら移動するという曲芸じみたことをやっている様子が描かれているのだ(私がサントリー美術館で観た日はその場面は開いていなかったのだけど)。確か、昔、間狂言ではアクロバティックなことをやっていたというのをどこかで読んだ気がするので、そういう実例かも。蜘蛛舞ってあーゆー感じなんじゃなかろうか。しかし、あんなアクロバティックなことをやられてしまうと、いざ後場になった時、前場の話をすっかり忘れてしまいそうな気がしないでもない。


それから図録が美麗。装束など実物より文様がよく分かるし、面も一ページにつき一つなので、かなり大きいサイズの写真で細部が確認できます。図録を買ったら今後の展示を見る楽しみが無くなるかという気もしたけど、持っていても良さそうと思って結局買っちゃいました。

ちなみに、会場にはずーっと中ノ舞と序ノ舞(かな?)の囃子が鳴っていて、最初は雰囲気があっていいんですが、ループしているので何時まで経っても先に進まず、不思議な感じなのでした。


というわけで、国立能楽堂に通っている人間にも面白い展示でした。


蛇足ですが、5/8に拝見した国立能楽堂普及公演(大蔵流の蟹山伏と金春流の春日龍神)のメモをアップしました。いつも通りダラダラと書いており、恐らく書いた私以外に見たい人はおるまいと自負していますが、万が一、忍耐力の限界に挑戦したいという奇特な方がいらっしゃいましたら、こちらを御覧下さい。