横浜能楽堂 博奕十王 江口

横浜能楽堂企画公演「能・狂言に潜む中世人の精神」 第3回「仏教」
平成23年2月12日(土) 14:00開演 13:00開場
講演 有馬償ワ底(臨済宗相国寺派管長)
狂言「博奕十王」(和泉流
能「江口」(観世流
http://www.yaf.or.jp/nohgaku/

講演 有馬償ワ底(臨済宗相国寺派管長)

江口とはほとんど関係ないお話ばっかりでしたが、無茶苦茶、面白いお話でした。

金閣寺にある弁財天を祀る妙音堂は実は防火用のポンプ室だとか、一番最初の天覧能は金閣寺北山殿で足利義満後小松天皇行幸を得て二十日間催した勧進能で道阿弥がそこで舞ったとか。また、毎月18日はお釈迦様の命日だけど、足利義満は前日の17日に相国寺で法要+勧進能をして、18日は室町第で行い、要するに相国寺の法要+勧進能は室町第の本番のリハーサルだったとか(!)。

さらに面白かったのは、「朝長」の懺法(ざんぽう)のお話。私は「朝長」は未見なのですが、「朝長」というお能の中で、囃子の太鼓の皮の張り方を緩くしてボンという独特の音を出す小書「懺法」があるのだとか。それは、有馬師の相国寺の観音懺法という行事の鉦の音を模したものなのだそう。ちなみに、この演能が終わった後、太鼓方のみ一人、舞台に戻り、再度皮を張り直してポンという常の音を出して終わるのだそうだ。面白い!是非、いつか機会があれば観てみたい。


狂言「博奕十王」(和泉流

以前観た「政頼」と同じ、「最近、人間界では仏教が大流行で、皆天国に行ってしまって地獄は商売上がったりなので、六道の辻まで行って、無理矢理人間を地獄に連れてきちゃおう」シリーズ。今回は博奕打(野村萬斎師)がターゲットとなるのだが…というお話。

アドとして万之介師が出演される予定だったのですが、昨年12月25日にご逝去され、順繰りに代演。万之介師は71才とまだお若いのに、お亡くなりになるなんて、ショック。あの飄々とした味は野村万蔵家には貴重な存在だったのに。

狂言の方は、囃子方が入って、ちょっぴりお能風。閻魔大王と鬼達がワキとワキツレよろしく、二列になって「住み慣れし地獄の里を立ち出でて、足に任せて行くほどに、六道の辻に着きにけり、六道の辻に着きにけり」とか、道行風に謡っちゃうところが笑える。博奕打も当然、最初は次第風に(一ノ松で)後ろを向いて謡ってた。いつもながら萬斎師の謡は素敵。しかし、その後は、予想通り、いたわしや閻魔大王殿(と鬼達)、博奕打のイカサマにまんまと騙され、身ぐるみ剥がされてしまうのでした。人間って怖い!


能「江口」(観世流

多分、素晴らしい演能だったのだろうと思うのだけど、睡魔に勝てませんでした。一番の原因は私自身の体調が本調子でなかったということが大きいと思いますが、二番目を挙げるとすれば、お能のテンポ、特に後場がものすごく遅く、私のキャパを超えていた点でしょうか。最初のワキ+ワキツレの待謡とそれに続く地謡の一声「川舟を。とめて逢瀬の波枕」云々ぐらいまでは軽快な速度だったのですが、そこからどんどん、どんどん、ゆっくりになっていって、ついに私が意識を失う閾値を超えてしまったのでした。

考えるに、この「江口」は序ノ舞で、タテもヨコも特大サイズの玄祥師が優雅に序ノ舞を舞うには、普通の序ノ舞以上に非常にゆったりとしたテンポにする必要があったのだと思うのです。ところが、『ゾウの時間 ネズミの時間』じゃないけれども、玄祥師ほど大きくなくて日頃はノロマながらせっかちなところもある私には、おそらく玄祥師が感じているテンポを感覚的に2倍くらいの遅さに感じていたのでは、と想像するのでした(ウソですので真に受けないでください)。

という訳で、「誰か私に10億円投資してくれたら、副作用ゼロで即効性の高い睡眠導入用医療機器(お能のDVD)を作って製造販売承認申請して承認されたら病院で売りまくります!」と言いたいくらいの強力な睡魔に襲われてしまったのでした。しかし、要所要所では地謡のテンポが変わって(といっても更に遅くなるのですが…)、夢うつつに聞いてるこちらも、あれっと思って目がぱっちり覚めたりして、さすが梅若会の地謡、伊達ではないのでした。

演能の内容のメモはそのうち書くとは思いますが、今日のところはひとまず、これぎり。


狂言「博奕十王」(和泉流

 シテ(博奕打)野村萬斎
 アド(閻魔大王)深田博治  小アド(前鬼)高野和憲  小アド(後鬼)月崎晴夫
 立衆(鬼)野村遼太  立衆(鬼)中村修一  立衆(鉄杖鬼)野村万之介
 笛:一噌隆之 小鼓:田邊恭資 大鼓:原岡一之 太鼓:小寺真佐人
 地謡:石田幸雄、破石晋照、岡聡史、加藤聡

能「江口」(観世流
 シテ(里女・江口の君)梅若玄祥
 ツレ(遊女)梅若長左衛門 ツレ(遊女)梅若紀彰
 ワキ(旅僧)殿田謙吉 アイ(里人)石田幸雄
 笛:一噌隆之 小鼓:大倉源次郎 大鼓:亀井広忠
 後見:角当行雄、小田切康陽、松山隆之
 地謡:観世喜正、山崎正道、馬野正基、鈴木啓吾、
 地謡:角当直隆、古川充、坂真太郎、川口晃平