東京国立博物館 総合文化展

東京国立博物館
http://www.tnm.go.jp/jp/servlet/Con?pageId=D01&processId=00&initdate=2011/01/01&dispdate=2011/02/19

土曜日は、昼、文楽を観て遊んでしまったので、毒を食らわば皿まで(?)ということで、東博に行ってきました。

日々、東博への恋慕の情、止みがたくも、今年初の東博訪問という私としては由々しき事態。とゆーか、平常展の展示品も無尽蔵ではないので「これを観るのは一体何回目か」というものがほとんどで、若干飽きてきた気がしないでもないけど、毎回何かしら新しい発見があったり、「どこにそんなの隠してたのよ!」と言いたくなるようなもののあったりするので、やっぱり東博通いはやめられないのでした。
そういえば、何だか年末年始に「トーハク?」っていうキャンペーンを大々的にやってたので結構期待して行ったんですが、あんまり変わってませんでした。せいぜい平常展が総合文化展って名前に変わってたのと、特別1室に椅子が3脚増えてたぐらい。ちょっと拍子抜け。


特別1室 中国書画
今回の特集は梅墨図&清朝の書跡。

水墨画においてポピュラーな画題である梅墨図は、そもそも、中国宋代の杭州の林和靖(967年-1028年)の書いた
 「暗香浮動(あんこうふどう) 月黄昏(つきこうこん)」
という梅の花に関する詩から来ているのだそう。

これはおもしろい。梅&月というテーマといえば、日本では既に在原業平くん(825年-880年)が、『伊勢物語』の中で後に清和帝の后となる高子ちゃんに失恋して、高子ちゃんが引っ越した後の梅の花咲くお屋敷で、一人寂しく月を眺めながら、
 「月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身ひとつはもとの身にして」
と詠み、月&梅のイメージの金字塔を打ち立ててしまっていた。

その結果、日本人は、どうしても月&梅の背後にそういう業平くんの歌の情景を見てしまう。古今集に、
「色よりも香こそあはれとおもほゆれたが袖ふれし宿の梅ぞも」(詠み人しらず)
という歌があるけれども、これは林和靖の影響だろうか?どちらにしても、やはり、業平くんの歌の影響は否定しようが無い。

「墨梅図」(劉世儒筆 明時代・16世紀) は、心ひかれるものがある。闇夜にぼうっとほの明るく咲く梅の花、そこに霞が掛かっていて、
「煙鎖孤山(えんさこざん、春霞に霞む林和靖の住んでいた山) 雪湖(世儒の号)」
という自賛が書きこまれている。その賛からして、林和靖の「暗香浮動 月黄昏」世界を描いたもので、本当は業平くんの世界とは無縁なのだけど、何となく湿った空気感を好ましく感じてしまうのでした。

それから光琳ファンとしては、「梅花図巻」(李方膺筆、清時代・乾隆20年(1755))が興味深い。構図、筆の運びが、いかにも光琳という感じなのだ。多分、これは光琳水墨画です、と言われたら、絶対に疑わないだろう。


書跡の方は清朝のものの特集。
「行書陳白沙七言絶句軸(ぎょうしょちんはくさしちごんぜっくじく)」(劉よう筆、清時代・18世紀)というのが面白かった。文字が一文字一文字書風を変えて書いてあって、観ていて全然飽きない。
http://www.tnm.go.jp/jp/servlet/Con?pageId=B07&processId=02&colid=TB1413


10室 浮世絵と衣装 ―江戸  浮世絵
「人形遣図」(稲垣つる女筆、江戸時代・18世紀)

ちょっと勝気そうな若くてきれいな娘が一人遣いの人形を遣っている。人形は虚無僧姿に尺八を吹いているので、もうこれは『仮名手本忠臣蔵』九段目の加古川本蔵できまり。若い娘が本蔵の娘の小浪とかではなく、敢えて加古川本蔵という渋い選択。何ゆえ本蔵を選んだのか、一度、お茶でもしながら彼女とじっくり語り合ってみたい気がしてくる(多分、小浪だと他の人形と区別が付かないからだとは思うけど)。