定期公演 翁 牛馬 弓八幡

定例公演  素謡・翁 牛馬 弓八幡
素謡 翁(おきな) 近藤乾之助(宝生流
狂言 牛馬(ぎゅうば) 大藏吉次郎(大蔵流
能   弓八幡(ゆみやわた) 大坪喜美雄(宝生流
http://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2012/1150.html

観劇の最初は、近藤乾之助師の「翁」の素謡からという、素晴らしい年明けとなりました。


素謡 翁(おきな) 近藤乾之助(宝生流

乾之助師の謡が力強く、うれしい限り。横浜能楽堂の乾之助師の「鉢木」が、楽しみになりました。この公演の後、私は松屋銀座風姿花伝 観世宗家展に行って、観世清和師の「翁」のビデオをたまたま観たのだけど、同じ曲なのに、ぜーんぜん、印象が違う。乾之助師が、禅画から出てきた霊験あらたかな翁らしい翁だとすれば、清和師の翁は、翁とは言っても、脂が乗った壮年の翁(へんだけど)という感じ。どっちが御利益が大きいかしらん?

千載は、金井雄資師がされていた。私にとっての宝生流ツートップの謡で今年の能楽鑑賞が幕開けとは、幸先いいスタートかも。


狂言 牛馬(ぎゅうば) 大藏吉次郎(大蔵流

目代(もくだい、山本東次郎師)が、牛馬の市を立てることになり、最初に市に着いて一ノ杭に牛馬を繋いだ者に、子々孫々にわたって店を次がせようと言うと、そのことを書いた高札を常座付近の柱に立てかける。すると、その話を聞いた馬を持つ博労(善竹十郎師)が早速現れる。彼は馬を一の杭につなぐ。博労は、まだほかに誰も来ていないので一眠りすることにする。そこへ、牛商人(大蔵吉次郎師)が現れる。自分が一番だと思い、一の杭に牛をつなぎ、牛商人も一寝入りする。両者はこの後、目を覚まして、お互いに自分が一番だと言い争いを始める。その声を聞きつけた目代が間に入って、仲裁をしようとするが…というお話。

最初は「豪華な顔合わせだなあ」と思って観ていたのですが、馬を持つ博労と牛を持つ牛商人が、お互い、馬と牛の由緒の正当性を主張し始めるところで、状況は一転。その由緒の詞が何とも古風で、いかにも語りにくく、かつ、覚えにくそうなもので、にわかに善竹十郎師vs.大蔵吉次郎師の台詞暗記力対決の様相に。ご由緒を語っている人が言い淀んでも、誰も台詞を付けないので、観ている方も手に汗を握り、正月気分も一瞬、吹き飛びました。まだ松の内なので、もうちょっとゆるーい気分で観られる曲でも良かったかも…?


能   弓八幡(ゆみやわた) 大坪喜美雄(宝生流

他の曲とはちょっと違う、変わった旋律の笛で始まり、ヒシギで[真ノ次第]に移行し、ワキの後宇多院の臣下(福王和幸師)とワキツレが舞台に現れる。

名乗りをして、八幡山、別名男山の初卯の神事に参詣せよとの宣旨が下り、これから八幡山に行くという。

臣下たちが八幡山に着くと、ヒシギが奏され、[真ノ一声]で、前シテの老人(大坪喜美雄師)とツレの男(小倉健太郎師)が出てくる。前シテの老人は、小尉の面に、朽木色の水衣に白の大口。モスグリーンの袋に入った桑の弓(袋の形はまるで、さやえんどうのよう)を担いでいる。

老人は、石清水八幡に年久しく仕える者で、臣下に桑の弓を捧げ物としたいのですという。臣下が理由を問うと、老人は、神慮だと答える。

老人は、弓を臣下に渡す。そして、臣下の求めに応じて、桑の弓のご由緒を語る。欽明天皇の時代に宇佐の郡(こおり)、蓮台寺の麓に八幡宮が現れた。そして、欽明天皇の御宇を守るため、石清水に現じたのだという。そのため、仲衷天皇の皇后であり、八幡祭神の一の神功皇后が九州四王寺の峰で七日七晩のご神拝をしたところ、天も納受して、国土を守り給うという。

そして、自分は、高良(かわら)の神(しん)であると打ち明けると、かき消すように失せてしまう。ここでは、高良は「こうら」ではなく、なぜか「かわら」というのだ。


中入りの後、間狂言となり、山下の者(禅竹富太郎師)が現れる。

臣下に当社の謂れを問われて、詳しくは存ぜねども、と前置きすると、謂れを語る。神功皇后が九州に赴き七日七晩ご神拝をしたところ、諏訪明神住吉明神が天から下りていった。それで、異国の夷が押し寄せてきたが、桑の弓蓬の矢を持って平らげ、その後、皇子をご出産された。そして、大菩薩が旗を流すと、石清水に落ちてご鎮座し、そのご影向の時が卯の年卯の月卯の日卯の刻だったため、初卯のご神事が始まったという。

臣下が先に会った高良の神について話すと、高良の神は末社第一の神であるため、ご参詣を喜んで現れたのだろうと言うと、御用の事も候はば重ねて仰せ候へ、というと、去っていった。


後場では、臣下が待謡を謡うと、太鼓入りの[出端]で、後シテの高良の神が出てくる。高良の神は、邯鄲男の面に、紺地に金の立涌に桐の文様、白大口の装束。そして[神舞]を舞うと、帰って行ってしまったのでした。