物語の多くさぶらふなる、あるかぎり見せ給へ

明けましておめでとうございます。

このメモのタイトルの言葉は更級日記の冒頭の段に出てくるものです。

更級日記の作者である菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)は、子供の頃、姉たちの噂する源氏物語などの物語にいたく心を惹かれていました。しかし東路のはてのなお奥つ方に住んでいた彼女には、物語の本を手に入れることは難しかったのでした。そこで彼女は、人のいない間にひそかに等身大の薬師如来像の前に身を投げて額付くと、

京(みやこ)にとくのぼせ給ひて、物語の多くさぶらふなる、あるかぎり見せ給へ

と祈るのです。

それほどまでに人を夢中にさせる、物語の魅力は、どこから来るものなのでしょう。知らず知らず物語に心奪われて、感情移入することで、自ずと心が癒されます。

去年は私にとっては新しい仕事の立ち上げで大変な年でしたが、何とか生き延びて新年を迎えられました。無力な自分に情けなくなったり力尽きそうにもなったけれど、文楽お能を観たり、本を読むことで癒され、前を向く勇気をもらい、何とか乗りきって来られました。

更級日記の冒頭の段に出てくる菅原孝標女がそう願ったように私も、今年もまたできるだけ多くの未知の物語や馴れ親しんだ物語と出会いたいと、強く願ってます。物語の中の登場人物達や演者の方々と共に泣いたり笑ったりして、生きていく力をもらうことで、去年より少しだけ、力強く生きていけるようになりたい。

2015年も皆様にとって良い年でありますよう心よりお祈り申し上げます。