東京国立博物館 平常展

法隆寺法仏殿>
2F 木・漆工

七弦琴(唐時代・開元12年(724)): 1Mくらいの大きさで、糸は張っていなかったけれども、琴の台の手前の方に徽(き)という印が一定の指数関数的な間隔でポツポツとついているのが興味深かった。Wikipediaによれば、この印に従い左手で弦を押さえて右手で弾くのだという。三味線みたいだ。また、奏法が難しく、音も小さい楽器だったため一度断絶する、とある。確かにギターぐらいの幅ならまだしも、この幅の琴に張られた七本もの糸を片手で押さえるのは相当難しいだろう。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%A4%E7%90%B4

羯鼓(室町〜桃山時代・15〜16世紀): なんとなく、歌舞伎の道成寺の踊りで出てくる鞨鼓を想像していたので、この鞨鼓が直径30cm程と結構大きいのにびっくりした。確かに、このくらいの大きさがないと、楽器としての用は成さないだろうなあ。

尺八奈良時代・8世紀):竹製であることは変わらずとも、大きさ・太さがアルト・リコーダーぐらいのミニ尺八。この大きさだと、恐らくそのままアルト・リコーダぐらいの音程の音が出るのだろう。三味線等と音域を合わせるために、今のように大きくなったのだろうか。


<本館>
第6室 書跡 経典

梵本心経および尊勝陀羅尼(後グプタ時代・7〜8世紀): 一瞬、タイ語に見えたのだけど、小さな梵字でお経が書いてある。興味深いのは、解説のボードの英語の表記で、"leaves of tala tree"(確か)に書かれているとあったこと。厚紙のように見えるのだが、実は貝多羅葉(ばいたらよう)といい、多羅木というシュロの一種の葉を傷付けて書いているらしい。
http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/pub/tojo/archive/tenji/tenji1/1-4-5.html

訳経記 浄厳(江戸時代・元禄7年(1694)): 梵字と漢字による"読み"が対になって書かれている(ように見える)。しかし、時代はかなり下って江戸時代のものだ。


本館 2F

3室  宮廷の美術 ―平安〜室町

月次風俗図屏風(8曲1隻 室町時代): 一年の各月の年中行事の模様を描いたもの。室町時代の作とあるが、正月の行事として、既に羽根突で遊ぶ人々が描かれている。そんな前からあったのだ。すごいなあ。また、羽根突のすぐ近くで若い男の子が興じているのは、毬打(ぎっちょう)というものらしい。春は、花見。田植えはまるで群舞のように沢山の人が集まってきている。年末は大人、子供、女官、坊主、あらゆる人が入り混じっての雪合戦。雪だるま(というか大きな雪のボール)を創っているのも楽しい。作者は不詳らしいが、どの絵も人々が心から楽しそうに遊んでいる様子が描かれていて観ていて飽きない。
http://www.tnm.jp/jp/servlet/Con?pageId=B07&processId=02&colid=A11090


祖師図(大満送大智&香厳撃竹)(伝狩野元信筆 室町時代・16世紀): 永徳の祖父、元信の画。カクカクとした線で描かれていて、永徳に通じるものがある(永徳が影響を受けているというべきだろうが)。絵自体は、素晴らしい。


7室 屏風と襖絵 ―安土桃山・江戸
なかなか見ごたえあり。

波涛図円山応挙筆、江戸時代・天明8年(1788)): 白い屏風に波が墨の線で描かれている。躍動感がある。
紅白梅図屏風(筆者不詳、江戸時代・17世紀): 垂らし込みによる紅梅・白梅と銀色の満月、大胆な構図。
鶴図屏風(呉春筆、江戸時代・18世紀): 妙に写実的な鶴。


8室 書画の展開 ―安土桃山・江戸

猩々舞図(鈴木其一筆、江戸時代・19世紀): お能の猩々の絵。

いろは屏風貫名菘翁筆、江戸時代・19世紀 ): 屏風に大きな字で四文字ずつかかれている。今のひらがなとほぼ同じ書き方なので、さすがに、これは読める。

一行書「松」「竹」「梅」 (慈雲筆、江戸時代・18〜19世紀): 構図が決まっていてカッコいい書。モダンとすら感じる。三枚の紙の冒頭に、松、竹、梅と大書きして、その下に夫々のテーマに関する故事を書いているらしいが、その故事については、失念。
http://www.tnm.go.jp/jp/servlet/Con?pageId=B06&processId=00&event_id=1009&event_idx=1&dispdate=2004/11/06

書状巻近衛信尹筆、安土桃山〜江戸時代・17世紀): 寛永の三筆、信尹の書だが、この書状巻に関しては、イマイチ、どのあたりが能筆なのだか分からず。


8室 浮世絵と衣装 ―江戸  浮世絵


お七と吉三郎(奥村政信筆、江戸時代・18世紀 ): 恐らく八百屋お七と恋人の吉三郎が部屋でくつろいでいる図、ということだと思う。今は八百屋お七と言えば、髪を振り乱して半鐘を鳴らす図、というのが固定イメージだが、この絵は、ほのぼのした雰囲気が漂っている。

市川高麗蔵の乞食(勝川春好筆、江戸時代・18世紀 ): 高麗蔵がゴザを体に巻いて立っている図。何の演目なんだろう?

仮名手本忠臣蔵・大序、二段目、三段目、四段目、五段目、六段目歌川国芳筆、江戸時代・安政元年(1854)): この前は七段目以降が出ていたが、今回は大序から六段目までらしい。
「大序」は、鶴岡社前に居並ぶ師直等と兜改めをするために兜の入った箱に近づく顔世御前。
「二段目」がその場ではどの場面を描いたものか分からなかったのだが、wikipediaによれば、台本が二種類あるという。ストーリーから判断して、「桃井館の場」の方らしい。庭木の松に対して何か作業をしている風情の武士と、縁側に座っている男性、そして部屋の衝立の後に若い女性がいてその二人の様子を伺っている、という図。庭越しに見える離れの部屋では、娘と若い武士(小浪と力弥?)が正座して挨拶をしている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%AE%E5%90%8D%E6%89%8B%E6%9C%AC%E5%BF%A0%E8%87%A3%E8%94%B5#.E4.BA.8C.E6.AE.B5.E7.9B.AE 
「三段目」刃傷の場面。ただし、場面は、部屋の中の場面で背後が襖になっている今の演出とは違い、庭に面して回廊のようになっている廊下での刃傷となっており、背景は庭と共に、遠近法で消失点に向かって長く伸びた廊下が描かれている。
「四段目」は裏門の場か。お屋敷通りで由良之助等がお屋敷の門を眺めている図。
「五段目」は勘平が山崎の山中で千崎弥五郎と出会ったところ。
「六段目」は、勘平が家に居て、おかるが祇園に行く駕籠に乗せられようとする場面。ただ、男性二人がおかるを駕籠に乗せようとしていて、一文字屋お才に当たる人は見当たらない。どうも、文楽同様、一文字屋から来たのは男性(才兵衛)ということらしい。


特別2室 新春特別展示 子年に長寿を祝う

霊亀二大字佐藤一斎筆 江戸時代・弘化2年(1845))
篆書百福寿(七歳書) 佐藤一斎筆 江戸時代・安永7年(1778)
隷書福寿(七歳書) 佐藤一斎筆 江戸時代・安永7年(1778)
七十四歳とある霊亀の二文字もいいのだけれど、七歳書となっている、篆書百福寿、隷書福寿がすごい。物心付くか付かぬかの七歳にしてここまで書けてしまうとは。努力も大事だが、そういうのを取っ払ってしまうくらいの天才というのはいるのだなあ、と思うしかない。朗報は、七十四歳の時の方が豪快な筆捌きであることだ。年をとってからの書の方が清々しい味がある。


<おまけ>

富士山の変容
ちくま学芸文庫「増補 絵画史料で歴史を読む」(黒田日出男)という本のP88に、富士山のイメージ(画像)の変遷についての記述があって、興味を引かれた。富士山が今のような形のイメージになったのは、北斎以降で、昔の富士山はてっぺんが峰四つ、安土桃山以降、三つになった、と、あった。それで、本館2Fで観た富士山の図の形を確認してみると。。。

月次風俗図屏風室町時代)→峰三つ&カヌレ
http://www.tnm.jp/jp/servlet/Con?&pageId=E16&processId=01&col_id=A11090&img_id=C0022473&ref=&Q1=&Q2=&Q3=&Q4=&Q5=&F1=&F2=

富嶽(伝祥啓筆、室町時代_延徳2年(1490))→峰三つ&カヌレ
http://www.tnm.go.jp/jp/servlet/Con?processId=00&Title=%95%78%9B%D4%90%7D&Artist=&Site=&Period=&FromNo=&ToNo=&pageId=F07&filmnum=24528

富士山図(英一蝶筆、江戸時代・18世紀)→峰三つ&カヌレ

富士山図(木村探元筆、江戸時代・18世紀)→峰三つ&北斎 ※木村探元は1679年〜1767年の人とのこと。ということは、北斎の絵より前に北斎型の富士を書いている可能性も高い。恐らく「絵画史料で〜」の中で、北斎が新たな富士山のイメージを創り出した、とあるのは、あの北斎の富士山が決定的に近代的富士山のイメージを確立した、ということなのだろう。

名所江戸百景・日本橋雪晴歌川広重筆、江戸時代・安政3年(1856) )→峰五つ!&北斎


で、ホンモノの富士山は…
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AF%8C%E5%A3%AB%E5%B1%B1

カヌレは、このデニッシュ。この写真は円柱形ですが、もっとプッチンプリン的に裾野が広がっているものもあるので、そういうのを想像してください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%8C%E3%83%AC

※絵画史料で歴史を読むはこの本です。

増補 絵画史料で歴史を読む (ちくま学芸文庫)

増補 絵画史料で歴史を読む (ちくま学芸文庫)