紀尾井小ホール 紀尾井江戸邦楽の風景 奥女中

紀尾井ホールの「江戸 邦楽の風景」第十五回。渡辺保先生のお話は聞けず残念。文楽からは『加賀見山旧錦絵』より「鶴が岡草履打の段」。以前、紀尾井ホールの「女流義太夫の新たな世界」という企画公演で、女義の駒之助師匠と文雀師匠のお初、和生さんの尾上、玉女さんの岩藤という超豪華配役で草履打、長局、奥庭まで観ていました。今回は燕三さんと呂勢さんの素浄瑠璃です。

燕三さんの三味線に関してはあまり活躍のしどころがなく、せっかく素浄瑠璃で聴けたのに残念でした。呂勢さんの語りの方は、岩藤、尾上、お初、その他脇役と様々な役が出てきて、変化にとみ、惹き込まれました。そして、面白かったのは、駒之助師匠の岩藤、尾上、お初ちゃんに比べると、呂勢さんの方が、意外にも、全体的にかなり優しい感じだったことでした。呂勢さんの浄瑠璃の中での怒りの表現は、いつもはあまりの迫力で怖さに引いてしまうくらいの時もあるのですが、今回は岩藤など、しっかり意地悪ではあるけれども、恐怖を感じるような迫力という感じではなく、そこは、男性が女性を演じる文楽と、女性が女性を表現するゆえに遠慮の無い女義との違いだったのかもしれません。

そして、このときは知らなかったけど、文楽の5月公演は夜の部が加賀見山となったので、こちらの方も楽しみです。燕三さん、呂勢さんにも加賀見山に出てほしいけど、お二人は昼の部の寺子屋かあ。

なお、呂勢さんの肩衣が席が遠くよく確認出来なかったのですが、遠目にはスモーキーな優しい色合いに見える小紋のようで、紋も花菱?のようでした。


その他、清元の「処女評判善悪鏡(白波五人女)」より「貸浴衣汗雷(かしゆたかあせになるかみ)(夕立)」など。清元はなかなか良く、面白く聴いたのですが、正直に告白すると、私は清元を聴きながらその詞章を味わうということがどうしても出来ません。一音一音が非常に長いので、せいぜい覚えていられるのは、十数文字分ぐらい。だから詞章の端々でいい表現だなと思っても、全体として何が唄われているのか全然把握できません。世の人々は清元を鑑賞するとき、どんな風に聴いているのでしょうか。考えてみると、そもそもこういうのは昔は習っている人が聴くものであって、初見(?)で聴くことはあんまり想定されていなかったりするのかも。